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伝統・民族

ムブベ

Mbube

ヨハネスブルク / ダーバン / 南アフリカ共和国 / 南アフリカ · 1930年〜

別名: Mbube singing / Zulu male choral

1939年ソロモン・リンダの録音で成立した、力強い無伴奏ズールー男声合唱。「ライオンは寝ている」の原曲。

どんな音か

ムブベは、南アフリカ・ズールー系男性の無伴奏合唱で、1939年ソロモン・リンダ&エヴニング・バーズが録音した『イシカタミヤ』が原型を確定した。編成はリード・テナー1人と、その下を支えるバリトン・バスの4〜10人。リードが胸声で力強く「イェ・イェ・マンボゥ、マンボゥ」と叫び、コーラスが4小節のリフで応答する。テンポは中速の4/4、和声はI-IV-V-Iの循環で単純だが、複数声部が重なった時の音圧そのものが表現の核だ。後に生まれるイシカタミヤの静粛と対照的に、ムブベは大声で歌うことに価値が置かれる。

生まれた背景

1900年代以降、ズールー系の若い男性が金鉱と砂糖プランテーションの労働を求めて故郷から離れ、ダーバンとヨハネスブルクの労働者宿舎に集住した。彼らは家族を離れた宿舎で、教会賛美歌の四声和声とズールーの集団歌唱を混ぜ合わせた男声合唱を生み出した。1939年、ダーバン近郊出身のソロモン・リンダ(1909-1962)がGallo Recordsでエヴニング・バーズと『イシカタミヤ』を録音、これは南アフリカの黒人音楽が初めてレコードとして世界市場に流通した楽曲となった。原盤の売上は10万枚を超えたと伝えられる。

聴きどころ

まずリードとコーラスの応答構造に耳を澄ませてほしい。リード歌手が5〜7秒の短いフレーズを叫び、コーラス全員が同じ長さの応答リフを返す、この対句の繰り返しが基本形だ。次に低音バスの動きで、コード進行に沿って半拍ずらして「ボンボン」と入るのが独特の推進力を生む。1939年の原録音『イシカタミヤ』では、途中でリンダが即興でファルセットに突き抜ける瞬間があり、それが後にThe Tokensのバックコーラス「ウィモウェ」の原型になった。The Lion Sleeps Tonightの旋律が原曲の即興句をそのまま抜いてきたことを知ってから聴くと、教科書に載る瞬間が耳の中で起きる。

発展

1951年ピート・シーガー率いるThe Weaversが『Wimoweh』としてカバーし全米No.6、1961年The Tokensが英語詞を付けた『The Lion Sleeps Tonight』が全米No.1・世界的スタンダードとなった。原曲の著作権はリンダとその家族に長らく渡らず、2006年になってようやくディズニー(『ライオン・キング』使用料)を含む和解が成立している。1950-60年代のダーバンではLadysmith Black Mambazoがより静かで振付を伴う派生形『イシカタミヤ』を確立し、以降ムブベ自体は「原型」として保存される存在になった。

出来事

  • 1939: Solomon Linda & The Evening Birds『Mbube』録音
  • 1951: The Weavers『Wimoweh』全米6位
  • 1961: The Tokens『The Lion Sleeps Tonight』全米1位
  • 1994: 映画『ライオン・キング』でカバー再登場
  • 2006: リンダ家族への著作権和解成立

派生・影響

イシカタミヤ(1950s以降のダーバン系静粛派)の直接の親。米国ドゥーワップ、初期ソウル合唱への間接的影響。「The Lion Sleeps Tonight」経由で世界の児童向け楽曲市場に到達。

音楽的特徴

楽器無伴奏の男声合唱(リード・テナー+バリトン+バスの複数声部)、時に足踏み

リズム中速の4/4、I-IV-V-I和声循環、リードとコーラスのコール&レスポンス、力強い胸声主体の発声

代表曲

  • AmabuthoLadysmith Black Mambazo (1973)
  • NomathembaLadysmith Black Mambazo (1973)

その後の代表曲

  • Rain, Rain, Beautiful RainLadysmith Black Mambazo (1987)

日本との関係

日本での認知は音源として『イシカタミヤ』ではなく『The Lion Sleeps Tonight』の旋律として広く聴かれてきた。1961年のThe Tokensの原盤、1994年のディズニー映画『ライオン・キング』、そして日本語カバーの数々を通して、この旋律は日本の児童向けレパートリーに定着している。原曲がソロモン・リンダの手による南アフリカのズールー合唱であることは長らく知られず、著作権和解が2006年に成立したことも一般には広まらなかった。近年ドキュメンタリー『A Lion's Trail』(2004)の紹介などで、この旋律の由来がようやく日本にも届き始めている。

初めて聴くなら

最初は当然、ソロモン・リンダ&エヴニング・バーズの『イシカタミヤ』1939年録音。SP盤時代のノイズの向こうから響く男声合唱の音圧を、まず4分聴いてほしい。次にLadysmith Black Mambazoの『Amabutho』(1973)、彼らのデビュー・アルバムのタイトル曲で、ムブベイシカタミヤの境界がまだ曖昧だった時期の記録だ。世界的な入り口としてはThe Tokens『The Lion Sleeps Tonight』(1961)を「原曲の子孫」として聴くと、旋律の変換過程が耳で追える。

豆知識

イシカタミヤ』はズールー語で「獅子」を意味する。リンダは若い頃、ヨハネスブルクへ向かう電車の窓から夜のサバンナの獅子の遠吠えを聴いた記憶を歌にしたと語ったと伝えられる。彼は1962年に腎不全で亡くなり、埋葬時に家族には墓石を買う金もなかった。一方『The Lion Sleeps Tonight』は世界で1500万枚以上を売り上げ、ディズニーの『ライオン・キング』ライセンス料だけで15億円以上を生んだと推計される。2006年の和解までリンダ家族には印税がほぼ渡らず、南アフリカの反アパルトヘイト運動の中でこの著作権侵害は象徴的事案として繰り返し語られてきた。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1920年代1930年代ムブベムブベイシカタミヤイシカタミヤマスカンダマスカンダマスカンディマスカンディ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ムブベを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

南アフリカ共和国 · 1930年前後 (±25年)

  • ジャズマラビ1920年〜 · 南アフリカ共和国
  • ジャズクウェラ1950年〜 · 南アフリカ共和国