伝統・民族

マスカンディ

Maskandi

南アフリカ共和国 / 南アフリカ · 1930年〜

南アフリカ・クワズールー州ズールー系の旅人(マスカンダ)が一人で弾き語る、口頭詩イジボンゴを核としたフォーク・ジャンル。

どんな音か

マスカンディの演奏者(マスカンダ)は一人でギターを弾きながら歌う。ギターはアコースティックで、弦を親指でピックなしに弾くズールーの奏法を使う。音型は短いフレーズの繰り返しで、現代の量産ギターではなく古い安価な楽器の金属弦のきらめきが音に出る。歌う前に口笛(ウムシュベチェロ)を吹いて旋律を示す習慣があり、これがマスカンディの音楽的な「名刺」になっている。歌詞は即興のイジボンゴ(口頭詩)で、自分の旅の経緯、牛の放牧、都市での苦労、恋愛などを歌う。ズールー語の歌詞は子音が重なる独特の音響を持つ。

生まれた背景

南アフリカのクワズールー・ナタール州で、出稼ぎ労働者(特に鉱山労働者)として都市に来た男たちが、農村に残してきた生活をギターで語る形として20世紀初頭に広まったとされる。「マスカンダ」という語はアフリカーンス語「musikant(音楽家)」に由来するという説がある。アパルトヘイト時代に都市部の移動が制限される中でも演奏者は移動し続け、旅そのものが音楽のテーマになった。Phuzekhemisi(プゼケミシ)は1990年代からカセットで広まり、クワズールー州の最大スターになった。

聴きどころ

Phuzekhemisi「Imbizo」(1992)では、ギターの繰り返し音型の中で指が弦をスライドする摩擦音が聴こえる。この手作り感のある音質がマスカンディの音像の核。歌い出しの前の口笛の短いフレーズを見逃さないでほしい。歌詞の内容はズールー語なので意味は追いにくいが、言葉のリズムとギターの刻みが同期する場所を耳で追うと、即興詩と楽器演奏の関係が見えてくる。

発展

1980年代にフィレマン・ンジロが商業録音で注目を集め、1990年代以降フェニアス・ンドロヴ、ピュア・ソウル、ブシ・ニェガが現代化を進めた。21世紀にはバンド化と社会派ヒップホップとの融合が広がる。

出来事

  • 1930s: 移動労働者の旅唄として成立
  • 1985: フィレマン・ンジロ録音
  • 1995: フェニアス・ンドロヴが国家賞
  • 2018: 大衆化に伴う論争

派生・影響

ムバカンガ、ズールー伝統、現代南アジャズ、アフロ・ヒップホップに影響。

音楽的特徴

楽器アコースティックギター、コンサーティーナ、声

リズムウマフタ・ピッキング、ズールー語イジボンゴ、3拍子と2拍子の混合

代表アーティスト

  • Phuzekhemisi南アフリカ共和国 · 1992年〜

代表曲

日本との関係

南アフリカフォーク音楽という文脈でさえ日本での知名度は低く、マスカンディを特定して聴く日本人リスナーはほとんどいない。ズールー文化全般への関心がないと入口が見つかりにくい。

初めて聴くなら

Phuzekhemisi「Imbizo」(1992)は録音状態がカセット的でノイジーだが、それ自体がこの音楽の質感。続けて「Khohlwa Ngami」(1998)を聴くと、同じ演者がどう旋律と語りを使い分けるかが分かる。南アフリカの農村風景の映像と合わせると音楽の背景が一気に立体的になる。

豆知識

マスカンディはかつて農村の祭りや葬儀で演奏される「生の場の音楽」だったが、1990年代にカセット産業と結びついて商業化した。Phuzekhemisi は農村出身の出稼ぎ経験者として、聴衆が自分の物語を重ねられるリアリティを持ち、インタビューで「私は作曲しない、自分の人生を歌うだけだ」と語ったとされる。

同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

南アフリカ共和国 · 1930年前後 (±25年)

ジャンル一覧へ戻る