マハラガーナート
エジプトの労働者階級発の電子シャアビー音楽。カイロ郊外Salam City発、FL Studioで作る安価で挑発的なダンス音楽。長らく公的放送禁止のDIYジャンルが、TikTok経由で2020年代に主流化。
どんな音か
金属的にチューニングされたデジタル・タブラの連打、安価なシンセのリードが裏返るような音、オートチューンを過剰にかけた絶叫ボーカル。テンポは100〜120BPMで4つ打ちというより、シャアビー(カイロの大衆音楽)由来のシンコペーションが暴れまわる。録音はクリッピング寸前まで歪み、ローエンドは細く、代わりに中高域が耳を刺す。FL Studioのプリセットそのままの音色も多く、「音が悪いことが美学」になっている。歌詞はエジプト方言の口語そのままで、貧困、警察、酒、麻薬、女性を露骨に扱う。
生まれた背景
発祥地はカイロ郊外のSalam Cityやal-Matariyaといった労働者階級の街。2007年前後、結婚式の余興DJたちが安いPCとクラックされたFL Studioで自作トラックを作り始めた。2011年のアラブの春で社会の箍が外れた時期、若者たちが街頭でこの音楽を爆音で鳴らし、当局はそれを「下品」「価値を毀損する」として公的放送と結婚式での演奏を繰り返し禁止した。それでも口コミ、ブートレグCD、後にTikTokを通じて広まり、2020年代半ばにはエジプト国外でも完全に主流化した。
聴きどころ
まず音圧の異常さに耳を慣らしてほしい。普通のポップスのつもりで聴くと、リミッターを振り切った歪みに驚くはず。次にボーカル、オートチューンが半音単位で揺れて、ほぼ人間離れした音程を作る。これは「下手を補正している」のではなく、わざとそうしている。リズムはダルブッカ(中東の打楽器)の連打パターンをサンプリングしたものが多く、4分の4拍子の中で奇数連の手数が混ざる。クラブで流れると床が抜けるような体感になる。
代表アーティスト
- Oka Wi Ortega
- Hassan Shakosh
- Hamo Bika
代表曲
بشتغل بشتغل — Oka Wi Ortega (2013)
بنت الجيران — Hassan Shakosh (2019)
هز يا وز — Hamo Bika (2020)
日本との関係
初めて聴くなら
Sadat & Alaa Fifty Centの『Mafish Sahby』(2014年の古典)、これがマハラガーナートの様式美を最も分かりやすく示している。次にOka & Ortegaの『Beshtaghal Beshtaghal』、結婚式バンガーの典型。三曲目はFigoの楽曲群、最近の洗練された世代を代表する。耳が痛くなる前提で、家のスピーカーでなくクラブかカーステで聴いてほしい。夜中のドライブでカイロの渋滞を想像しながら聴くと体感が変わる。
