伝統・民族

マハラガーナート

Mahraganat

エジプト / 中東・北アフリカ · 2007年〜

別名: Mahraganat / Electro-shaabi

エジプトの労働者階級発の電子シャアビー音楽。カイロ郊外Salam City発、FL Studioで作る安価で挑発的なダンス音楽。長らく公的放送禁止のDIYジャンルが、TikTok経由で2020年代に主流化。

どんな音か

金属的にチューニングされたデジタル・タブラの連打、安価なシンセのリードが裏返るような音、オートチューンを過剰にかけた絶叫ボーカル。テンポは100〜120BPMで4つ打ちというより、シャアビー(カイロの大衆音楽)由来のシンコペーションが暴れまわる。録音はクリッピング寸前まで歪み、ローエンドは細く、代わりに中高域が耳を刺す。FL Studioのプリセットそのままの音色も多く、「音が悪いことが美学」になっている。歌詞はエジプト方言の口語そのままで、貧困、警察、酒、麻薬、女性を露骨に扱う。

生まれた背景

発祥地はカイロ郊外のSalam Cityやal-Matariyaといった労働者階級の街。2007年前後、結婚式の余興DJたちが安いPCとクラックされたFL Studioで自作トラックを作り始めた。2011年のアラブの春で社会の箍が外れた時期、若者たちが街頭でこの音楽を爆音で鳴らし、当局はそれを「下品」「価値を毀損する」として公的放送と結婚式での演奏を繰り返し禁止した。それでも口コミ、ブートレグCD、後にTikTokを通じて広まり、2020年代半ばにはエジプト国外でも完全に主流化した。

聴きどころ

まず音圧の異常さに耳を慣らしてほしい。普通のポップスのつもりで聴くと、リミッターを振り切った歪みに驚くはず。次にボーカル、オートチューンが半音単位で揺れて、ほぼ人間離れした音程を作る。これは「下手を補正している」のではなく、わざとそうしている。リズムはダルブッカ(中東の打楽器)の連打パターンをサンプリングしたものが多く、4分の4拍子の中で奇数連の手数が混ざる。クラブで流れると床が抜けるような体感になる。

代表アーティスト

  • Oka Wi Ortegaエジプト · 2008年〜
  • Hassan Shakoshエジプト · 2010年〜
  • Hamo Bikaエジプト · 2012年〜

代表曲

日本との関係

日本との直接的な接点は皆無に近いが、中東音楽好きのDJの間では2020年頃から徐々に発見されており、東京のWWWやContactでアラブ系イベントが組まれる際にスポット的にかかる。サウンド的には日本ジュークフットワークやハードコアテクノとの相性が良く、Foodmanあたりの実験的なリスナー層には響くはず。J-popとの接点は今のところほぼないが、エジプト料理レストランの増加と共に少しずつ耳に届き始めている。

初めて聴くなら

Sadat & Alaa Fifty Centの『Mafish Sahby』(2014年の古典)、これがマハラガーナートの様式美を最も分かりやすく示している。次にOka & Ortegaの『Beshtaghal Beshtaghal』、結婚式バンガーの典型。三曲目はFigoの楽曲群、最近の洗練された世代を代表する。耳が痛くなる前提で、家のスピーカーでなくクラブかカーステで聴いてほしい。夜中のドライブでカイロの渋滞を想像しながら聴くと体感が変わる。

豆知識

マハラガーナート(مهرجانات)」はアラビア語で「フェスティバル」の複数形だが、エジプトの労働者街では結婚式の野外パーティ全般を指す俗語にもなっていた。2020年、エジプトの音楽家組合(ミュージシャン・シンジケート)は正式にマハラガーナートを「音楽ではない」と宣言し、所属歌手の活動を全面禁止する声明を出した。しかしTikTokが台頭した結果、その規制はほぼ無意味化。Hassan Shakoshの『Bint el-Geran』はYouTubeで10億回再生を超え、エジプト史上最大のヒット曲の一つになった。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1970年代1980年代2000年代マハラガーナートマハラガーナートシャアビー(エジプト)シャアビー(エジプト)ハウスハウス凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
マハラガーナートを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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