スコティッシュ・トラッド
スコットランドのフィドル・パイプ伝統音楽。
どんな音か
スコットランドのフィドル(バイオリン)は、クラシックの奏法とは大きく異なる。弓の圧力を強めて音を太くし、装飾音(クランは二本の弦を一瞬同時に押さえる技法)を多用する。バグパイプは9つのドローンパイプが鳴り続けるために和声的な余韻が常にあり、チャンターで吹くメロディが先立つ。リールは32小節を繰り返す速い4拍子で、ストラスペイは点付きリズム(スコッチ・スナップ)が特徴の遅めの4拍子だ。踊るための音楽を源泉に持つため、体を動かしたくなる引力が強い。
生まれた背景
スコットランドの音楽伝統は、ゲール語文化圏のハイランドと、低地スコットランドのローランドで性格が違う。バグパイプはハイランドの氏族社会と深く結びついており、戦場や葬儀・婚礼に不可欠だった。フィドル音楽は18世紀にニール・ゴウ(1727〜1807)が大きな影響を与え、彼が書いたリール・ストラスペイの曲集は今もレパートリーの核をなす。「Niel Gow's Lament (1784)」はゴウが亡き妻のために書いたとされる緩やかな曲で、様式の幅がわかる。19世紀末から20世紀にかけてセシル・シャープらがフォークリバイバルの文脈でスコットランド音楽を収集・整備し、1970〜80年代にバトルフィールド・バンドやシリー・ウィザードらが現代的な解釈で再提示した。
聴きどころ
「Niel Gow's Lament — Niel Gow (1784)」ではフィドルが低音から旋律を引き出す方法に注目する。「The Valley of Strathmore — Silly Wizard (1981)」は速いリールと遅いストラスペイが対になっており、スコッチ・スナップ(短から長の音価の逆転)が出てくるとリズムの感触ががくりと変わる瞬間がある。
発展
1745年のジャコバイト乱後の禁制を経て19世紀に復興。フィドル奏者Niel Gowらが舞踏曲集を整備した。20世紀後半にはBattlefield BandやSilly Wizardが現代的演奏を確立。
出来事
- 1746: バグパイプ・タータン禁制(後解除)
- 1784: Niel Gow曲集刊行
- 1781: Highland Society of London創設
- 1980年代: Celtic Rock興隆
派生・影響
Cape Breton fiddle、Old-timeの基盤の一つ。アメリカのBluegrass旋律にも影響。
音楽的特徴
楽器ハイランド・パイプ、フィドル、クラルサッハ(ハープ)、アコーディオン
リズムリール、ストラスペイのスナップ音、スロー・エア
代表アーティスト
- Niel Gow
- Battlefield Band
- Silly Wizard
代表曲
- The Valley of Strathmore — Silly Wizard (1981)
Niel Gow's Lament — Niel Gow (1784)
日本との関係
ケルト音楽ブームが日本でも起きた1990年代に、アイルランド音楽と並んでスコットランドのフィドルやバグパイプを聴く層が生まれた。「スコットランドの釣り鐘草(アニーローリー)」などは明治の唱歌にも取り入れられていた。東京や大阪にはアイリッシュパブに準じたセッション場があり、スコティッシュ・トラッドも演奏される。
初めて聴くなら
「Niel Gow's Lament — Niel Gow (1784)」で緩やかな面から入り、次にシリー・ウィザードの「The Valley of Strathmore (1981)」で速いリールの世界へ。2曲で様式の振れ幅がつかめる。
豆知識
バグパイプの「スコティッシュ・ハイランド・バグパイプ」に使われる音階は西洋の12音音階とは微妙に異なる固有の音律で、A音が標準ピッチより高く調律される。これが他の楽器と合わせるときに課題になる一方、バグパイプ特有の「外れているのに合っている」音色の理由でもある。
