ロック・メタル

インドネシアン・インディーポップ

Indonesian Indie Pop / Rock-Ballad

インドネシア / 東南アジア · 2000年〜

インドネシアの現代ポップ・ロック・バラード。Seventeen、Nadhif Basalamah、Sal Priadiらが代表。

どんな音か

ここでいうインドネシアン・ロック/インディーポップ・バラードは、2010年代後半以降ジャカルタ・バンドン・ジョグジャカルタを中心に育った、内省的なバンドサウンドを指す。BPM70〜100のミドルテンポ、クリーントーンのエレキギターのアルペジオ、太いベース、ブラッシュ気味のドラム、温度の低いインドネシア語ボーカル、というのが標準フォーマットだ。歌は感情を張り上げず、内側に折りたたむタイプで、Coldplayや藤井風的な「囁き系ロック」と地続きの音作りだ。バラード勢は弦アレンジを足して映画音楽的に仕上げ、Seventeenが切り拓いた泣きのバラード路線を21世紀的にアップデートした手触りになっている。

生まれた背景

インドネシアは2億7000万の人口を抱える東南アジア最大の市場で、2000年代まではPeterpanやSheilaOn7のメロディアスなギターポップが圧倒的に強かった。流れが大きく変わったのは2018年9月の悲劇で、バンドSeventeenがジャワ島沖のスナミ被災現場で公演中に津波に襲われ、ボーカルのIfan以外のメンバーと家族が亡くなった。この事件はインドネシア音楽史の節目になり、その後の世代は「叫ぶロック」から「内省するインディー」へと傾斜した。Sal Priadi、Nadhif Basalamah、Pamungkasといった新世代がSpotify インドネシアのチャートを占め、ジャカルタの若者の感情の温度を反映する音楽として育っている。

聴きどころ

声の押し方に注目してほしい。Sal Priadiは語りかけるような低音域を中心に使い、サビでも声を張り切らない。代わりに歌詞のインドネシア語の韻と母音の響きで感情を伝える作り方だ。Nadhif Basalamahはもう少し若々しい高音を使うが、それでも欧米ロックほど吠えない。ギターはディストーションを使わず、ペダルのコーラスやリバーブで空気を作る方向に振っていて、これがインドネシア・インディーの「気だるい湿度」を生む。歌詞は恋愛、別離、自分への失望、というモチーフが多く、ジャカルタ的な「都会で消耗する若者」の心象が反復される。

代表アーティスト

  • Seventeenインドネシア · 1999年〜2018
  • Sal Priadiインドネシア · 2018年〜
  • Nadhif Basalamahインドネシア · 2020年〜

代表曲

日本との関係

日本での流通はほぼ無いに等しいが、Spotifyの東南アジア・プレイリスト経由で日本シティポップ/インディーポップ愛好家が偶然出会うルートが立ち上がりつつある。藤井風、Vaundy、ササノマリイあたりを好むリスナーには耳の相性が良く、SNSでの個人発の発見が中心の段階だ。インドネシア日本のアニメ消費が極めて活発な国で、Sal PriadiのMVには日本のアニメ的な色彩感覚が混じることがあり、その「逆輸入されたJ-POP美意識」をインドネシア語で聴くという独特の体験ができる。

初めて聴くなら

最初の一曲はSal Priadi『Amin Paling Serius』、結婚式で歌われる定番ラブソングで、彼の語りかける声の質感がいちばん分かる。次にNadhif Basalamah『penjaga hati』、TikTokから国民的ヒットになったバラードで、若々しいインディーポップの空気を吸える。Seventeenの旧譜なら『Jaga Selalu Hatimu』、津波以前の彼らの代表曲で、インドネシア・ロックのバラード王道が味わえる。

豆知識

Sal Priadiは元教師という経歴の異色のシンガーソングライターで、本格音楽教育を受けずに2018年デビュー、いまやインドネシアのインディー・ポップ第一人者になった。彼の『Amin Paling Serius』はインドネシアのウェディングソング・チャートで長期1位を取り続けている。Seventeenの津波被災事件はインドネシアでは「Tsunami Tanjung Lesung」として記憶されていて、生き残ったIfanはのちにソロで再起、被災記念曲を発表している。インドネシアは事実上ムスリム国家だが、ロックバラードの歌詞には宗教色は薄く、世俗的恋愛が主題だ。

影響・派生で結ばれたジャンル

インドネシアン・インディーポップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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