WorldMusic

伝統・民族

ヨルング・マニカイ

Yolngu Manikay

アーネムランド(Yirrkala / Galiwin'ku / Ramingining) / オーストラリア / オセアニア · -40000年〜

別名: Manikay / Yolŋu manikay / Yolngu songlines

北部アーネムランドのヨルング諸族が数万年継承する氏族の歌。イディジェリドゥとクラップスティックによる儀礼歌。

どんな音か

ヨルング・マニカイは、オーストラリア北部準州アーネムランドのヨルング諸言語話者(Gumatj、Rirratjingu、Djapu、Marrakulu、Djambarrpuyŋu など)が氏族単位で継承する儀礼歌の総体を指す。曲は「songline(歌の道)」と呼ばれ、氏族の土地の地理、祖先の旅程、動物・植物・水源との関係を歌詞と旋律に埋め込む。編成はyidaki(ヨルング語のイディジェリドゥ)、bilma(硬木のクラップスティック)、リード歌手(songman)と応答する集団歌唱で、旋律線は3〜5音の限定音階、自由リズムに近い伸縮を持ち、yidakiが循環呼吸で持続音と打音アクセントを刻む。

生まれた背景

ヨルング諸族はオーストラリア北端に4万年以上暮らし、氏族(clan)ごとに固有の歌・舞・図像を継承してきた。songlineは単なる歌ではなく、土地の所有権、祖先との親族関係、季節の狩猟採集のカレンダーを一体で保持する複合的な知識体系だ。1990年代以降のオーストラリアのNative Title(先住民土地権)訴訟では、これらの歌が土地との継続的関係を証明する法的証拠として採用されるようになり、法廷でsongmanが実演することもある。伝統的な担い手は各氏族の年長のsongmanで、Djalu Gurruwiwiがその代表例である。

聴きどころ

まずyidakiの循環呼吸に耳を澄ませてほしい。奏者は鼻から息を吸いながら口に貯めた空気を吐き出し続け、途切れない持続音を作る。その持続音の上に、舌と喉で「トゥ、トゥ、トゥ」というアクセント音を刻む重層構造だ。次に旋律で、ヨルングの歌は西洋耳が期待する「メロディ」ではなく、3〜5音の限定音階を、詩の脚韻と息継ぎに合わせて伸縮させる朗詠に近い。Djakapurra Munyarryunの『Ochres』(1994、Bangarra Dance Theatre)は、この様式を舞台芸術に翻案した最も明快な入り口だ。

発展

20世紀後半にはAIATSIS(オーストラリア先住民研究所)と民族音楽学者Alan Marett、Peter Toner、Aaron Corn らによる系統的録音とアーカイブ化が進み、1990-2010年代にはヨルングの若い世代がロック/ラップとマニカイを接続する道が開かれた。決定打は1991年のYothu Yindi『Treaty』で、これはRirratjingu/Gumatj氏族のマニカイ旋律とロック編成を融合させ、先住民和解運動の象徴曲となった。2010年代以降はGeoffrey Gurrumul YunupinguがGumatj氏族のマニカイをアコースティック・ソウルに翻案、Baker Boyがヨルング語ラップで世代を代弁した。

出来事

  • 1935-2022: Djalu Gurruwiwiの活動期
  • 1991: Yothu Yindi『Treaty』
  • 1999: Garma Festival初開催
  • 2008: Gurrumul『Gurrumul』国際的成功
  • 2019: Daniel Wilfred / AAO『Ruwe Ngadluku』

派生・影響

オーストラリア先住民音楽(australian-aboriginal)の地方原型。Aboriginal Rockの直接の親。近年はDaniel WilfredがPaul Grabowsky/Australian Art Orchestraと現代ジャズに翻案する試みも継続。

音楽的特徴

楽器yidaki(イディジェリドゥ、円筒木管)、bilma(クラップスティック、硬木2本)、リード歌手+集団応答、時に足踏み

リズム自由リズム、yidakiの循環呼吸ドローンと打音アクセント、3〜5音の限定音階、氏族固有の歌型

代表アーティスト

  • Djalu Gurruwiwiオーストラリア · 1955年〜2022
  • Djakapurra Munyarryunオーストラリア · 1990年〜
  • Trevor Wanambiオーストラリア · 1990年〜
  • Daniel Wilfredオーストラリア · 2005年〜

代表曲

その後の代表曲

日本との関係

日本での認知は限定的だ。イディジェリドゥ楽器としての知名度は1990年代以降のワールドミュージック・ブームで一定の広がりを持ったが、それが「ヨルング諸族の氏族的儀礼歌」であることまで届いた例は稀だ。国内にはGOMA(1973-)などのイディジェリドゥ奏者が存在するが、彼らは楽器としての循環呼吸奏法を継承しつつも、ヨルング氏族のマニカイ体系そのものを扱っているわけではない。Yothu Yindi『Treaty』(1991)経由でこの伝統の存在を知る若い聴衆が増えつつある段階だ。

初めて聴くなら

最初はDjalu Gurruwiwiの『Yidaki』(2003、彼のドキュメンタリー『Djalu: A Portrait of a Master Didjeridu Player』関連録音)で、yidakiという楽器の全貌が体感できる。次にDjakapurra Munyarryunが声楽を担当したBangarra Dance Theatre『Ochres』(1994)、伝統的な氏族歌唱を現代舞踊の文脈で聴ける入り口だ。最新世代を知りたければDaniel Wilfred / オーストラリアn Art Orchestra『Ruwe Ngadluku』(2019)、Paul Grabowskyが編曲したマニカイと現代ジャズの融合が聴ける。

豆知識

「manikay」はヨルング諸語で「歌」を意味し、狭義には氏族の公開可能な歌を指す。より秘匿性の高い儀礼歌はwaŋga、djatpangaɽɽi、madayinなど別の階層で扱われ、外部者は録音を許されないことが多い。yidakiはヨルング諸語での正式呼称で、「didgeridoo」は外部からの俗称に近い。楽器はストリンギバーク(ユーカリの一種)の枝が白蟻に食い荒らされて空洞化したものを切り出して作る。Djalu Gurruwiwiは自身のyidakiが世界中の演奏家に届いた楽器製作の巨匠として、2022年に87歳で亡くなるまで氏族の伝承を息子Larry Winiluwuiに引き継いだ。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図-50000年代-40000年代1980年代ヨルング・マニカイヨルング・マニカイアボリジニ音楽アボリジニ音楽アボリジニ・ロックアボリジニ・ロック凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ヨルング・マニカイを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

ヨルング・マニカイ の系譜全体図(多段)を見る