朗詠
漢詩や和歌の一節を雅楽編成で吟詠する歌物雅楽。
どんな音か
漢詩の一節を、旋律を付けてゆったりと吟じる。音の動き方は今日の歌謡とは大きく違い、一つの音節を引き伸ばしながら音程を微妙に変化させていく。雅楽の管弦が支えるとはいえ、主役はあくまで吟じる声で、笙や篳篥の音は歌声の背後に遠く聴こえる霞のようだ。テンポは拍を測るというより、詩の言葉の重さに従って伸縮する。演奏者が一人で歌うこともあれば、複数が一緒に吟じることもある。
生まれた背景
聴きどころ
一つの漢字がどれほど長く引き伸ばされるかに注目してほしい。音節の長さが西洋音楽とは別の時間軸で動いている。篳篥(ひちりき)の音は葦製のリードを通す細い音で、独特の引っかかるような倍音がある。それが声と混ざると、室内の空気が変わるような感覚がある。
発展
中世以降、催馬楽とともに歌物雅楽として伝承された。武家社会では朗吟・詩吟の文化に流れ込み、近世の漢学者の素養として広まった。明治以降は宮内庁楽部で伝承が継続している。
出来事
- 10世紀末: 朗詠曲の形式確立。
- 1013年頃: 藤原公任『和漢朗詠集』成立。
- 中世: 武家社会で詩吟文化に影響。
- 明治期: 宮内省楽部で継承。
- 2009年: 雅楽としてユネスコ無形文化遺産登録。
派生・影響
近世の詩吟・吟詠の源流の一つとされ、漢詩文化と音楽の架け橋となった。能の謡や仕舞の発声法とも一定の影響関係がある。
音楽的特徴
楽器笙、篳篥、龍笛、声
リズム自由律、長母音の引き伸ばし、漢詩・和歌詞章
日本との関係
初めて聴くなら
宮内庁楽部による録音がNHKアーカイブや一部のCD(例:コロムビアの雅楽シリーズ)に収録されている。まず短い曲から聴き、声が音節をどのように処理しているかを追う。漢詩の内容を日本語訳で確認してから聴くと、音楽の輪郭がつかみやすい。
豆知識
藤原公任の『和漢朗詠集』は「詩歌の選集」であると同時に「歌われる教科書」でもあった。収録された漢詩句は白居易(白楽天)のものが最も多く、平安貴族の白楽天好みを反映している。この集成が後の和歌・連歌にも影響を与えたという意味で、朗詠は平安文学の裏側を支えた形式でもある。
