古典

ティラーナ

Tillana

トリヴァンドラム / インド / 南アジア · 1830年〜

カルナータカ古典の高速器楽的歌曲。

どんな音か

ティラーナはカルナータカ音楽のコンサートを締めくくる高速歌曲で、意味のある言葉よりも「タナ」「ディリ」「タカ」といった音節(ソルカトゥ)が歌詞の大部分を占める。BPMは速く、ムリダンガムが細かいリズムパターンを連打するなか、ヴォーカルはそれと対話するように急速な旋律を走らせる。音の密度が高く、聴いていると呼吸が合わせられないほどの速さになる瞬間がある。バラタナーティヤム(南インドの古典舞踊)の伴奏音楽としても機能し、踊り手の足捌きと太鼓のパターンが鏡のように対応する。M.バーラムラリクリシュナのティラーナは声のコントロールが際立って精緻で、速いパッセージでも各音節が粒立っている。

生まれた背景

ティラーナの起源はインド北部のタラーナ(ヒンドゥスターニー音楽の器楽的声楽形式)にあるとされ、18世紀から19世紀にかけてカルナータカ音楽に取り込まれながら独自の形式に発展したと言われる。当初は舞踊の伴奏として特化した形式だったが、20世紀に入るとコンサートでも独立した演目として採用され、プログラムの最後を盛り上げる役割を担うようになった。「コンサートの花火」として位置づけられており、演奏家は技巧と体力の両方を問われる。

聴きどころ

ソルカトゥ(音節)の切れ目と息継ぎの位置を追うと、演奏家がいかに長いフレーズを一息で処理しているかが見えてくる。ムリダンガムのパターンがヴォーカルと一致するタイミングと、あえてズレるタイミングを聴き分けるのも面白い。『ティラーナ in Brindavani』(M.バーラムラリクリシュナ、1985年)ではブリンダーヴァニー・ラーガの明るく軽快な音階が速いパッセージに乗り、終盤の盛り上がりで声の圧が増す瞬間が聴きどころ。

発展

20世紀のM・バーラムラリ・クリシュナ・ラリタ・ヴェンカタラマンらがティラーナの新作・舞踊化を推進した。コンサートの最後を飾る活気ある曲として定着している。

出来事

  • 19世紀前半: スワーティ・ティルナル作曲群。
  • 1947年: バーラスラスワティ舞踊復興。
  • 1980年代: バーラムラリ・クリシュナ全国普及。
  • 2000年代: 舞踊終曲としての定着。
  • 2015年: 国際カルナータカ・コンサートの定番化。

派生・影響

北インドのターラナと並ぶリズム的歌曲伝統を成し、現代フュージョン・パーカッション・アンサンブルの素材としても用いられる。

音楽的特徴

楽器声、ヴィーナ、ヴァイオリン、ムリダンガム、ガタム

リズム高速ターラ、太鼓シラブル中心の歌詞、技巧的旋律

代表アーティスト

  • M.バーラムラリクリシュナインド · 1944年〜2016

代表曲

  • Tillana in BrindavaniM.バーラムラリクリシュナ (1985)

日本との関係

バラタナーティヤムを学ぶ日本人は一定数おり、東京や大阪の南インド舞踊教室の発表会でティラーナが披露されることがある。ただし日本の聴衆が音楽形式としてのティラーナを認識している例は少なく、舞踊の付属物として経験されることがほとんどである。

初めて聴くなら

M.バーラムラリクリシュナの『ティラーナ in Brindavani』(1985年)を最初に聴き、続けてバラタナーティヤムの映像とあわせて観ると、音楽とダンスの対応関係が一気に明確になる。曲の時間は比較的短く5〜8分程度なので、繰り返し聴いてリズムのパターンを体に馴染ませるのが理解への近道。

豆知識

カルナータカ音楽のコンサートは「クリティ」「ラーガム=ターナム=パッラヴィ」「ティラーナ」という順で構成されることが多く、ティラーナは演奏家と観客が共に最高潮に達することを意図した「締め」の形式である。「タナ」「ディリ」といった音節は打楽器の音を口で模倣したものとも言われ、声と打楽器が同じ言語を話すという設計思想がそこに凝縮されている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1500年代1830年代ティラーナティラーナカルナーティック古典カルナーティック古典凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ティラーナを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

インド · 1830年前後 (±25年)

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