伝統・民族

カージリー

Kajri

ベナーレス / インド / 南アジア · 1800年〜

別名: カジュリー

雨季を主題とする北インドの準古典・民謡的歌曲。

どんな音か

カージリーは女性的な音域で歌われることが多く、声は高く澄んでいる。速い音数で言葉を処理するタアン(彫刻的な音型)が特徴で、一つの音から分岐して複数の音が枝分かれしていくように聞こえる。ラーグ(音階体系)は北インド古典音楽の枠組みを使うが、より民謡的で親しみやすい。タンボーラと呼ぶドローン弦楽器が背景に絶えず鳴り、リズム楽器が軽快に打つ。歌詞は雨季の情景、恋人の帰来、自然の営みなど。

生まれた背景

インド、特にウッタル・プラデーシュ州の民間音楽として、雨季(サワン月=7月から8月)の祭りや集まりで歌われてきた。準古典音楽と分類されるのは、古典音楽の構造を借りながらも、より単純で民衆的な性格を保つためである。女性が歌う伝統が強く、また若い女性の声が好まれるため、世代交代のなかで音の明るさや速度感が時代とともに変化している。

聴きどころ

声の精密な装飾、特にタアンの部分で何度も何度も同じフレーズが変形しながら戻ってくるパターン。ドローン弦がどの周波数帯で鳴っているか。太鼓のリズムが声のリズムと食い違う瞬間の緊張感。歌詞の内容と旋律の選択の関係。

発展

20世紀のショーバー・グルトゥ・ギリジャー・デーヴィー・ラージャン-サージャン・ミシュラ兄弟らがカージリーをコンサート・レパートリーに組み込んだ。ボリウッド映画でも雨季シーンの歌としてしばしば登場する。

出来事

  • 18世紀: 農村雨季歌としての形成。
  • 19世紀: ベナーレスでの準古典化。
  • 1965年: ショーバー・グルトゥ録音。
  • 1980年代: ギリジャー・デーヴィーによる定番化。
  • 2000年代: 季節歌伝承の文化財指定議論。

派生・影響

チャイティー(春の歌)・ホーリー(春祭り歌)・サワン(雨季歌)など季節歌系のジャンルとともに北インド準古典歌曲群を構成する。

音楽的特徴

楽器声、ハルモニウム、タブラ、サーランギー

リズムケヘルワー・ダドラの軽快な拍、雨季を表現する旋律、女性合唱の応答

代表アーティスト

  • ギリジャー・デーヴィーインド · 1949年〜2017
  • ショーバー・グルトゥインド · 1956年〜2004

代表曲

日本との関係

カージリー日本ではほぼ知られていない。インド古典音楽の認知は進んでいるが、それは主にヒンドゥスターニー古典音楽(楽器中心)やボリウッド映画音楽を通じてであり、北インド民俗音楽の詳細な形式まで学ぶ機会は限定的である。

初めて聴くなら

『Sawan カージリー』ギリジャー・デーヴィー(1990年)。ギリジャー・デーヴィーはカージリーの最高の歌い手の一人で、彼女の録音から入るとこのジャンルの音の本質が分かる。雨の日の夕方、少し物思いにふけりながら聴くのに向いている。

豆知識

カージリーは世代によって歌唱スタイルが大きく異なる。現代の若い歌い手は音数をさらに増やし、速度を上げる傾向がある。一方で古い録音(1960年代)は相対的にゆっくりで、装飾が少ない。雨季の文化的意義が薄れつつある現代インドでは、この音楽の担い手が減少しているとも言われる。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1800年代1850年代カージリーカージリートゥムリートゥムリー凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
カージリーを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

インド · 1800年前後 (±25年)

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