台語ポップ
台湾の閩南語(台語/Hokkien)で歌われるポップ・ロック。伍佰と閃靈が代表格。
どんな音か
台語ポップ(台語 = Tâi-gí、台湾ese Hokkien)は、普通話 マンダリンポップ とは別の言語軸で発展した台湾の閩南語ポップ/ロックだ。中心は Wu Bai & 中国 Blue 伍佰&中国 Blue のブルース・ロック、Chthonic 閃靈のシンフォニック・ブラック/フォーク・メタル、Bobby Chen 陳昇の Hokkien 楽曲群、そして2020年代以降の若手インディー(茄子蛋 Eggplant Egg、拍謝少年 Sorry Youth)に大別できる。編成は伍佰のようなブルース・ロック・トリオが伝統的で、Chthonic は琵琶とエルフー(erhu)を常設の8-9人編成、拍謝少年のような世代は3-4人組のパンク・ロック・バンド。歌詞は台語で書かれ、故郷(特に南部)、労働、政治的アイデンティティ、日本統治時代の記憶といった、マンダリンポップ があまり扱わない題材が中心だ。
生まれた背景
1949-87年の戒厳令下、台湾では公用語が北京語のみとされ、学校での台語(Hokkien)の使用が処罰対象だった。台語ポップの誕生は、この40年間の抑圧の反動として理解する必要がある。1987年戒厳令解除以降、封じ込められていた台語の音楽が復権する。決定打は1990年結成の Wu Bai & 中国 Blue で、伍佰(1968生、嘉義県、本名 呉俊霖)が Stratocaster を歪ませ、Eric Clapton 譲りのブルース・ソロを台語詞に載せた。1996年 マンダリンポップ『Last Dance』が国民的ヒット、翌1998年の Hokkien アルバム『樹枝孤鳥』(枝に止まる孤鳥)が「台語ロック」というジャンル呼称を定着させた。同時期にフォーク寄りの Bobby Chen 陳昇(1958生、彰化県)が マンダリンポップ と Hokkien を行き来する二重言語の作家として『把悲傷留給自己』(1989)などで独自の場所を築いた。
聴きどころ
伍佰の声を聴いてほしい。彼の地声は 1990 年代の マンダリンポップ 男性歌手(張學友、劉徳華)の艶やかな高音とは真逆の、ハスキーで低い南部の声で、台湾南部の労働者階級のアクセントをそのまま歌に持ち込んだ。『Last Dance』のブルース進行(I-IV-V-I)に台湾南部の月琴的なメロディが重なる瞬間が、彼の楽曲の商標だ。Chthonic の『Takao』(2013)は Freddy Lim のブラック・メタル・シャウトと、琵琶の陳詩宗の間奏が並ぶ極端な融合で、歌詞は日本統治時代の高雄(Takao、日本語読みでタカオ、後に高雄)の日本統治期の記憶を扱う。フロントマンの Freddy Lim 林昶佐が 2016 年に台北市第五選挙区で立法委員(国会議員)に当選、時代力量所属で 2020 年再選、現役の音楽家が国会議員を務める稀な例となった。
発展
1995年結成の Chthonic 閃靈(台北)は台湾史上初のシンフォニック・ブラック/フォーク・メタル・バンドで、台湾民間信仰の悪魔と日本統治時代の霧社事件を主題にした『Takao』(2013)、『Battlefields of Asura』(2017)で世界的認知を得た。フロントマンの Freddy Lim 林昶佐は2016年に時代力量所属の立法委員(国会議員)に当選し、2020年再選、音楽と政治の直接接続でも注目された。2010年代半ば以降は茄子蛋 Eggplant Egg(2017『浪流連』が金曲奖3部門制覇)、拍謝少年 Sorry Youth といった若い世代が台語インディー・ロックの層を厚くしている。
出来事
- 1987: 戒厳令解除、台語自由化
- 1990: Wu Bai & China Blue 結成
- 1995: Chthonic 結成
- 1996: 伍佰『Last Dance』
- 2013: Chthonic『Takao』
- 2016: Freddy Lim 立法委員当選
派生・影響
1970-80年代の台語民謡歌謡(那卡西 Nakasi)から直接派生。Mandopop とは兄弟関係、rock 全般とは regional_variant。
音楽的特徴
楽器エレキギター(ブルース寄り)、ベース、ドラム、時に月琴、二胡、笛子、Chthonic は琵琶とエルフー(erhu)を常用
リズムブルース/ロックの4/4、Chthonic の変拍子・ブラストビート、拍謝少年のシンプルなパンク・ロック4/4
代表アーティスト
- Bobby Chen (陳昇)
- Wu Bai (伍佰)
- Chthonic (閃靈)
代表曲・古典
把悲傷留給自己 — Bobby Chen (陳昇) (1989)
鴉片玫瑰 — Bobby Chen (陳昇) (1993)
Last Dance — Wu Bai (伍佰) (1996)
挪威的森林 — Wu Bai (伍佰) (1996)
樹枝孤鳥 — Wu Bai (伍佰) (1998)
白鴿 — Wu Bai (伍佰) (1998)
Takao — Chthonic (閃靈) (2013)
代表曲・現在
破夜斬 — Chthonic (閃靈) (2017)
日本との関係
台語ポップと日本の関係は歴史的に深い。伍佰の 1996 年の代表曲『挪威的森林』(ノルウェイの森)は村上春樹の同題小説からタイトルを取り、日本語版『Last Dance』は台湾人リスナーにも広く聴かれている。Chthonic は日本統治時代(1895-1945)の台湾史を主題にした楽曲を多く持ち、特に 1930 年の霧社事件(セデック族の対日蜂起)を扱った『Battlefields of Asura』(2017)は日本のメタル・シーンでも高く評価された。彼らは日本のツアー実績が豊富で、Loudpark、Ozzfest 日本 に出演している。伍佰の 1998 年 Hokkien アルバム『樹枝孤鳥』のタイトル自体、日本語の「わたりどり」の情緒に近い南方的な郷愁を持つ。
初めて聴くなら
豆知識
伍佰の本名 呉俊霖は「呉のなかで5番目に生まれた霖」の意で、幼少期からのあだ名「五百(伍佰)」がそのまま芸名になった。Chthonic の Freddy Lim は 2003 年から反中国 CCP の政治活動に参加、2012 年ダライ・ラマ来台時のオープニング演奏を担当した。2014 年 Sunflower Movement 時にはメンバーの多くが立法院占拠に参加し、Freddy が立法委員として国会に入る流れを準備した。伍佰は 2020 年代に入って中国大陸市場での活動を縮小、台湾国内でのライブに集中している。茄子蛋 Eggplant Egg の 2018 年『浪流連』(お互い漂流し続けよう)は同年の金曲奖3部門受賞で、若い世代の台語ロック復権を象徴した。
