確率音楽
確率論・統計学を作曲原理とする音楽。クセナキスが理論化・実践した。
どんな音か
確率音楽は、確率論、統計、数学的モデルを作曲原理に用いる音楽。ヤニス・クセナキスは、点の群れ、音の密度、グリッサンドの集合を計算的に設計し、個々の音より大きな音響現象を作った。偶然任せの音楽ではなく、確率分布を使って、雲、群衆、粒子のような動きを音にする試みである。
生まれた背景
1950年代、建築家でもあったクセナキスが、戦後前衛のセリー技法に別の道を示す形で展開した。彼はル・コルビュジエのもとで建築に関わり、数学、物理、工学の思考を作曲に持ち込んだ。「メタスタシス」や「ピソプラクタ」は、線や点の集合として音を考える発想を強く示している。
聴きどころ
旋律を一つずつ追うより、音の群れがどう変形するかを聴く。弦のグリッサンドが巨大な面を作り、打点が雨や粒子のように密度を変える。冷たい数学に感じるかもしれないが、実際の響きは非常に身体的で荒々しい。楽譜の図形や作曲過程を後から見ると、耳で感じた圧力の構造が理解しやすい。
発展
クセナキス「メタスタシス」(1954)、「ピソプラクタ」(1956)が出発点、「ヘルマ」(1961、集合論ピアノ作品)、「ノモス・アルファ」(1966、群論的構成)、確率分布関数を直接用いた多くの作品が発表された。コンピュータ作曲ソフト「ストカス(Stochos)」も開発した。
出来事
- 1954: クセナキス「メタスタシス」初演
- 1956: クセナキス「ピソプラクタ」初演
- 1958: ブリュッセル万博フィリップ館
- 1971: クセナキス「形式化された音楽」出版
派生・影響
アルゴリズム作曲、コンピュータ音楽、現代電子音響音楽、グラニュラー合成へ理論的影響を残した。
音楽的特徴
楽器管弦楽、室内楽、電子音響
リズム確率分布、音響クラウド、グリッサンド群
代表アーティスト
- ヤニス・クセナキス
代表曲
- Pithoprakta — ヤニス・クセナキス (1956)
- メタスタシス — ヤニス・クセナキス (1954)
- ピソプラクタ — ヤニス・クセナキス (1956)
- ヘルマ — ヤニス・クセナキス (1961)
- ノモス・アルファ — ヤニス・クセナキス (1966)
日本との関係
初めて聴くなら
入口は「メタスタシス — ヤニス・クセナキス (1954)」。弦の線が巨大な音響面へ変わる瞬間が印象的である。続けて「ピソプラクタ — ヤニス・クセナキス (1956)」で点と密度の変化を、「ノモス・アルファ — ヤニス・クセナキス (1966)」で独奏楽器に数学的思考が凝縮される様子を聴きたい。
豆知識
Stochasticは確率的という意味だが、クセナキスの音楽はランダムな気まぐれではない。大量の音を一つずつ支配する代わりに、全体の密度や分布を設計する発想である。これは作曲を、建築や自然現象のモデリングに近づけた。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 伝統・民族フェスト・ノーズ
- エレクトロニックミュジーク・コンクレート
- エレクトロニックアクースマティック音楽
- エレクトロニックスペクトル楽派
