トータル・セリアリズム
音高だけでなく音価・強弱・音色まで全パラメータを音列で組織する戦後の作曲技法。
どんな音か
トータル・セリアリズムは、音高だけでなく、長さ、強弱、音色、奏法まで列として組織する戦後現代音楽。音は点のように散らばり、旋律や拍の手がかりは薄い。ブーレーズやシュトックハウゼンの初期作品では、厳密な構造が鋭い響きとして現れる。
生まれた背景
1949年のメシアン「音価と強度のモード」以後、戦後ヨーロッパの若い作曲家が、十二音技法をさらに拡張して全パラメータを制御しようとした。伝統から断絶し、ゼロから音楽を組み立てる意識が強かった。
聴きどころ
歌える旋律を探すより、音の点の配置を聴く。高い音、低い音、短い音、強い音が空間にばらまかれ、緊張の密度を作る。難解でも、音色の鋭さや沈黙の置き方には身体的な迫力がある。
発展
ブーレーズ「ル・マルトー・サン・メートル」(1955)、シュトックハウゼン「グルッペン」(3群の管弦楽、1957)、L.ノーノ「中断された歌」(1956)が代表作。1960年代以降は厳格な構成原理が緩和され、不確定性・電子音楽・スペクトルへ多様化していく。
出来事
- 1949: メシアン「音価と強度のモード」
- 1951: シュトックハウゼン「クロイツシュピール」
- 1952: ブーレーズ「ストリュクチュールI」
- 1955: ブーレーズ「ル・マルトー・サン・メートル」初演
派生・影響
電子音楽、不確定性音楽、新複雑性、戦後現代音楽全体の理論的基盤を提供した。日本の作曲家(柴田南雄、入野義朗)にも影響を与え、戦後日本現代音楽の出発点ともなった。
音楽的特徴
楽器管弦楽、室内楽、電子音響
リズム全パラメータの音列化、点描的書法
代表アーティスト
- オリヴィエ・メシアン
- ピエール・ブーレーズ
- カールハインツ・シュトックハウゼン
- ルイージ・ノーノ
代表曲
- ル・マルトー・サン・メートル — ピエール・ブーレーズ (1955)
- 音価と強度のモード — オリヴィエ・メシアン (1949)
- ストリュクチュールI — ピエール・ブーレーズ (1952)
- 中断された歌 — ルイージ・ノーノ (1956)
- グルッペン — カールハインツ・シュトックハウゼン (1957)
日本との関係
日本では戦後現代音楽の教育や研究で重要な技法として受け止められた。黛敏郎、武満徹、一柳慧らの世代も、欧州前衛の動向を強く意識していた。一般聴衆には難しいが、作曲史では避けられない。
初めて聴くなら
出発点として「音価と強度のモード — オリヴィエ・メシアン (1949)」。徹底した構造なら「ストリュクチュールI — ピエール・ブーレーズ (1952)」。大編成の空間性は「グルッペン — カールハインツ・シュトックハウゼン (1957)」がよい。
豆知識
トータル・セリアリズムは、感情をなくした音楽と批判されることもある。ただし作曲家にとっては、戦後に古い語法をそのまま使えないという切実な問題への答えでもあった。ダルムシュタット夏季講習会のような場で若い作曲家が議論を重ね、ヨーロッパ前衛の共通語として急速に広まった。 演奏者にとっても難度が高く、音を正確に置く緊張がそのまま作品の冷たい輝きとして聴こえることがある。 聴き手にとっても、旋律を覚えるより、音がどの高さや強さで突然現れるかを追うほうが、この音楽の緊張に入りやすい。
