ソビエト大衆歌
国家が後押しした、ソ連の明るく行進的な大衆歌謡。
どんな音か
覚えやすい長調の旋律と力強い行進調を基本に、独唱と大合唱が交互に重なる愛国歌謡。多くは明るく前向きだが、戦時歌には短調の深い抒情を湛えた名曲が混じる。吹奏楽や軍楽隊、男声合唱の厚い響きが「国家が歌っている」という感触を生む。
生まれた背景
1930年代、スターリン期の社会主義リアリズムのもとで、国家が意図的に育てた歌謡ジャンルが「大衆歌」だった。ドゥナエフスキー、ブランテル、アレクサンドロフらが映画とラジオ向けに量産し、赤軍合唱団がその拡声器となった。労働と祖国と指導者を称える音楽を、人々の日常の隅々まで届けることが目的だった。
聴きどころ
独唱が一節歌い、それを大合唱が受け止める「呼びかけと応答」の構造に注目したい。行進調の四拍子でも、戦時歌では短調と長調を行き来して涙を誘う転調が用いられる。吹奏楽・軍楽隊の金管とアコーディオンの組み合わせが、独特の「ソ連の音」をつくる。
発展
独ソ戦(大祖国戦争)期には『聖なる戦い』『暗い夜』『青いプラトーク』といった戦時歌が国民的支持を集め、抒情と愛国を結びつけた。戦後も国家行事・祝祭・映画音楽として量産され続け、冷戦期にはソ連の文化的アイデンティティの象徴となった。
出来事
- 1932年: 社会主義リアリズムが公式の創作原則とされる。
- 1941年: 『聖なる戦い』が独ソ戦開戦直後に発表される。
- 1943年: 映画『二人の兵士』で『暗い夜』が歌われ大ヒット。
派生・影響
中国の紅歌や北朝鮮の革命歌謡など、社会主義圏の国家歌謡のモデルとなった。一方で、同じソ連内に国家歌謡への対抗としてバルド(吟遊詩人)歌が地下で育つ。
音楽的特徴
楽器合唱、独唱、吹奏楽、軍楽隊、オーケストラ、アコーディオン
リズム行進調の四拍子、斉唱しやすい長調旋律、戦時歌は抒情的短調も
代表アーティスト
- Leonid Utyosov
- Klavdiya Shulzhenko
- Red Army Choir
- Mark Bernes
代表曲
- Sacred War — Red Army Choir (1941)
Sinii Platochek — Klavdiya Shulzhenko (1942)
Tyomnaya Noch — Mark Bernes (1943)
日本との関係
初めて聴くなら
マルク・ベルネスが歌う『暗い夜(Tyomnaya Noch)』(1943)が入口に最適で、戦時歌の抒情がよく分かる。勇壮な側面を知るなら赤軍合唱団の『聖なる戦い(Sacred War)』(1941)を。
