ラテン・カリブ
ソン・ハロチョ
Son Jarocho
ベラクルス州 / メキシコ / 南米 · 1700年〜
メキシコ・ベラクルス州沿岸地域のメスティーソ・アフロ・先住民系融合音楽で、複弦ギター(ハラナ)と小型リュート(レキント・ハロチョ)が奏でる抒情的舞踏曲。
どんな音か
ソン・ハロチョの音は、スペイン的悲哀とアフリカン・パーカッションの『衝突と融和』である。複弦ギター(ハラナ)が奔放で、複雑なトレモロ・パターンを駆る。その上で、小型リュート(レキント・ハロチョ)が高い音域で装飾的なフィルを挿入する。リズムは2/4と6/8の混在で、アフリカ由来のポリリズムが底流にある。テンポはBPM100台で、楽器のダイナミクスは大きく、フォルテッシモからピアニシモへの急変が特徴。歌唱(ボーカル)は往々にしてロマンティックで、スペイン民謡の伝統を継承しながら、メキシコ・スペイン語の抑揚が独特の『歌唱言語』を形成している。
生まれた背景
ソン・ハロチョはベラクルス沿岸の16世紀スペイン植民地化時代に起源し、スペイン本国の『ソン』伝統、アフロ・カリブ系音楽、メキシコ先住民音楽が混交して形成された。17〜19世紀を通じて沿岸部の労働者階級(奴隷含む)の間で伝承され、20世紀中盤には『メキシコ文化遺産』として国家的に再評価された。Lila Downs(リラ・ダウンズ)のような現代の世界的アーティストによって、21世紀には国際的な認知度が上昇している。
聴きどころ
ハラナのトレモロ・パターンの『複雑性』(一定ではなく、フレーズごとに変化する)。レキント・ハロチョが『どの瞬間に旋律を引き継ぎ、どこで装飾音に回るか』。アフロ系リズムの『タイトさ』(ポリリズムの精密性)。歌唱がハラナのビートとどの程度『シンクロ』するか。
発展
1958年のリッチー・ヴァレンス「ラ・バンバ」がアメリカン・ロックンロールに翻案され世界的ヒットとなる。1970年代以降のソン・ハロチョ復興運動でグルーポ・モノ・ブランコ、ロス・コホリテスが伝統復活を担った。21世紀には移民文化としての米国メキシコ系コミュニティでも盛ん。
出来事
- 1683: ベラクルス海賊襲撃で記録
- 1958: リッチー・ヴァレンス「ラ・バンバ」
- 1976: グルーポ・モノ・ブランコ結成
- 2010: 復興運動の世代継承
派生・影響
アメリカン・ロック(「ラ・バンバ」)、現代メキシカン・フォーク、チカーノ・ロックに影響。
音楽的特徴
楽器ハラナ・ヒターラ、レキント・ハロチョ、アルパ・ハロチャ、声
リズム高速6/8、サパテアード足踏み、即興詩交換
代表アーティスト
- Lila Downsメキシコ/米国 · 1999年〜
日本との関係
ソン・ハロチョはラテン音楽愛好者の間では若干の認知度があるが、日本の大衆文化では限定的。Lila Downsの国際的活躍に伴い、最近になって『メキシコ民族音楽』という枠組みで言及されるようになった。
初めて聴くなら
Lila Downsの『ソン・ハロチョ』インタープリテーション。元々の『地元バージョン』ではなく、Downsの『洗練版』から入ることで、ジャンルの構造が理解しやすい。昼間に、太陽が高い環境で聴くと、ベラクルス沿岸の陽光が想像できる。
豆知識
ソン・ハロチョは『ラス・グランデス・シェース・デル・ムンド』(世界三大ダンス)の一つとして、キューバ音楽やプエルトリコ音楽と並列に扱われることがある。Lila Downsはメキシコ先住民(ミステカ)と米国人の混血で、彼女の音楽は『植民地主義の音響的遺産』を主体的に再解釈する実践として論じられている。
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