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ラテン・カリブ

ソン・ワステコ

Son Huasteco

ワステカ地方(サン・ルイス・ポトシ、イダルゴ、ベラクルス、タマウリパス) / メキシコ / 中南米・カリブ · 1800年〜

別名: Huapango / Huapango arribeño

メキシコ北東部のワステカ地方に伝わる、ヴァイオリンと2種のギターとファルセットが対話する三重奏の民俗音楽。

どんな音か

ソン・ワステコは、メキシコ北東部のワステカ地方(サン・ルイス・ポトシ、イダルゴ、ベラクルス、タマウリパスの4州にまたがる地域)に伝わる三重奏の民俗音楽だ。編成はヴァイオリン1、ハラナ・ワステカ(5弦の小型ギター、伴奏用)、キンタ・ワパンゲラ(5弦の大型ギター、低音)の三人だけで完結する。ソン・ハローチョと同じ「ソン」の系譜だが、こちらはより北のメスティーソ文化圏で、ヴァイオリンが主旋律を担い、二人の男声ボーカルがそれぞれ通常音域とファルセット(裏声)で交互に応答する即興的な合唱形式を持つ点が大きく違う。曲は6/8と3/4のポリリズム(ヘミオラ)、テンポは120-160BPM、ダンサーが木製のプラットフォーム(タリマ)の上で足を鳴らすサパテアードで律動する。

生まれた背景

18-19世紀にかけて、スペイン植民地時代の欧州舞踏音楽(ファンダンゴ、ボレロ、ワルツ)と、ワステカ地方の先住民の詩の伝統、そしてアフロ・メスティーソの打楽器感覚が融合して成立した。同じメキシコの「ソン」の系譜であるソン・ハローチョ(ベラクルス沿岸)、ソン・カリエンテ(ゲレーロ)とは兄弟関係にあるが、ソン・ワステコの決定的な特徴はヴァイオリン1本が旋律の中心にいる点で、ハラナ・ワステカとキンタ・ワパンゲラは伴奏専用に徹する。歌詞は詩の10音節行(décima)を基本形とし、演奏者はその場で歌詞を即興で作り相手に投げ返す「トロヴァ」の伝統が現在も生きている。20世紀半ばには「エル・トリオ・ワステコ・デ・ミゲル・アセベス・メヒア」がラジオを経由して全国に知られ、1955年結成のTrio Los Camperos de Vallesが現在まで70年近く活動を続ける最古の職業三重奏団となった。

聴きどころ

ファルセット(裏声)の使い方が最大の聴きどころだ。二人の男声ボーカルが交互に歌い、片方が通常音域で歌詞を語り、もう片方がファルセットでその一行を繰り返し、更に別のフレーズを継ぐ。この応答形式(alternancia)がソン・ワステコの型の骨格になる。ヴァイオリンは同じ旋律を何度も繰り返しつつ装飾を毎回変える即興性で聴かせ、時に古い旋律が長調と短調を行き来する独特の憂いを持つ。サパテアードの足踏み音は録音でもマイクで拾われることが多く、リズムの一部として機能する。Trio Los Camperos de Vallesの『La Petenera』を聴くと、この全要素が明快に聴き取れる。

発展

20世紀半ばには「エル・トリオ・ワステコ・デ・ミゲル・アセベス・メヒア」といった初期のプロ三重奏団がラジオとレコード会社を経由して全国に知られるようになり、1955年に結成されたトリオ・ロス・カンペロス(Trio Los Camperos de Valles)が現在まで70年近く活動を続ける最古の職業三重奏団となった。1990年代以降はロス・カンペロス・デ・バリェス、トリオ・チコンテペックといった若手世代が伝統様式を守りつつ国際フェスに進出、2010年代にはSmithsonian Folkways FestivalやWOMEXで欧米に紹介された。ワステカ地方の各町では毎年「Concurso Regional de Huapango(地域ウアパンゴ大会)」が開催され、10代の若手が伝統様式の中で腕を競う場が続いている。

出来事

  • 1955: Trio Los Camperos de Valles結成
  • 1976: Grupo Mono Blanco結成(復興運動)
  • 2010: WOMEXでSon Huasteco紹介
  • 2018: Los Camperos de Valles米ケネディ・センター公演

派生・影響

ソン・ハローチョ、ソン・カリエンテと兄弟関係にあり、ランチェラの中に「ワパンゴ・ランチェロ」(6/8のランチェラ)として一部溶け込んでいる。マリアッチが1930年代以降ワパンゴを取り込んだのはこのソン・ワステコが直接の親元だ。

音楽的特徴

楽器ヴァイオリン、ハラナ・ワステカ(5弦ギター)、キンタ・ワパンゲラ(5弦低音ギター)、男声二重唱(通常音域+ファルセット)

リズム6/8と3/4のヘミオラ、120-160BPM、サパテアード足踏み、即興詩の交換

代表アーティスト

  • Trio Los Camperos de Vallesメキシコ · 1955年〜
  • Trio Chicontepecメキシコ · 1978年〜

代表曲・古典

日本との関係

日本での認知はほぼゼロだが、Smithsonian Folkwaysの1990年代以降のワステカ音楽録音が新宿・下北沢の中古レコード店に稀に流通する。国内でソン・ワステコを本格的に演奏する奏者はほぼいないが、ワールド・ミュージック系のフェスで稀に紹介された記録がある。日本のヴァイオリン奏者の中には、ソン・ワステコの旋律を東欧のクレズマーや北欧のフィドル音楽と並べて研究する専門家がわずかにいる。

初めて聴くなら

最初はTrio Los Camperos de Vallesの『La Petenera』——ワステカ地方の代表的なソンで、ヴァイオリンとファルセットの応答形式が最も明快に伝わる。次に彼らの2000年代のライブ録音を聴けば、実際のワステカのファンダンゴ(コミュニティの祭)の空気が伝わる。深夜、静かな部屋で、ヘッドホンではなく小さめのスピーカーで、が向いている——ソン・ワステコは元々コミュニティの舞踏場で数時間続く音楽で、その空気を録音から想像する聴き方が正しい。

豆知識

「ワステコ(Huasteco)」はメキシコ北東部の先住民ワステカ族に由来する形容詞で、彼らはナワトル語族と近いテウトル語系の言葉を話していた。現代のソン・ワステコは音楽的にはメスティーソ(混血)文化の産物だが、地域の呼称は先住民由来を保っている。ヴァイオリンの調弦は西洋クラシックと同じG-D-A-Eだが、ソン・ワステコの奏者はしばしば1本目の指を2弦の間に置く独特のポジションで演奏する——これが古い民俗奏法の名残と考えられる。Trio Los Camperos de Vallesは2018年米ワシントン・ケネディ・センターで公演した。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1700年代1800年代1850年代1940年代ソン・ワステコソン・ワステコソン・ハロチョソン・ハロチョマリアッチマリアッチフォークフォーク凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ソン・ワステコを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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