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伝統・民族

シャシマカーム

Shashmaqam

ブハラ / サマルカンド / ドゥシャンベ / ウズベキスタン / タジキスタン / 中央アジア · 1600年〜

別名: Shashmaqom / Shashmaqām / Shash Maqām / Central Asian six-maqam suite

ブハラを中心とする中央アジア古典組曲。ブハラのユダヤ人宮廷楽師が伝承してきた6マカーム体系。UNESCO(2003)。

どんな音か

シャシマカーム(タジク語・ウズベク語で「6つのマカーム」)は、ウズベキスタン・ブハラを中心に隣接するタジキスタン西部まで広がる古典組曲の伝統だ。6つのマカーム(Buzruk、Rost、Navo、Dugoh、Segoh、Iroq)からなり、各マカームは自由リズムの前奏mushkilotから始まり、器楽組曲khona、声楽組曲nasrhoへと進行する。全体を通しで演奏すると2〜3日を要する。編成はタンブール(長棹リュート)、ドタール、サトー(弓奏)、ドイラ(枠太鼓)を核に、男声・女声の独唱を配し、詩はペルシャ古典詩(ハーフィズ、ジャーミー、ナヴォイー)を用いる。

生まれた背景

起源は16世紀のブハラ・シャイバーニー朝宮廷とされ、以降マンギト朝を経て20世紀初頭までブハラのアミールが宮廷楽師団を養った。担い手として決定的に重要だったのがブハラのユダヤ人(Bukharan Jews)で、宗教的少数派として世俗音楽の担い手役に就く社会構造がハーレム宮廷にあり、シャシマカームの伝承は数百年間ユダヤ楽師家系(Levicharov家、Toximurodov家など)によって守られた。1920年ブハラ・アミール政権崩壊後、ソヴィエト当局は宮廷音楽を「封建的」として一時抑圧したが、1950年代以降にはブハラ音楽学校を軸として国立化を通じ再定式化した。

聴きどころ

まず各マカームの内部構造に耳を慣らしてほしい。マカームは単なる旋法ではなく、mushkilot(自由リズムの前奏)→talqin(遅い8拍子)→nasr(中速)→ufar(急速のフィナーレ)という数十曲からなる大組曲で、全体を通して感情の高潮曲線を描く。次にタンブールの音色で、Turgun Alimatovの右手のトレモロは驚くほど繊細な微分音の揺れを生む。声楽側ではBarno Iskhakovaの深い胸声と、詩の脚韻でずらすタメの美学が最大の聴きどころだ。ドイラの複合拍子はペルシャ古典やインド古典との共通性がある。

発展

ソヴィエト期の中心人物はタンブール奏者Turgun Alimatov(1922-2008)で、彼の1990-2000年代の録音群がシャシマカーム器楽の到達点として世界的に評価される。声楽側ではBarno Iskhakova(1927-2001、Bukharan Jewish)が『マカームの女王』として知られ、パリのOcora Radio Franceが1994年に彼女の録音を発行、シャシマカームを西側の耳に届けた。ソヴィエト崩壊後の1990年代、Bukharan Jewish楽師の多くがイスラエル・NYクイーンズに移住し、以降ディアスポラ内でも継承活動が続く。2003年、UNESCOがシャシマカームを無形文化遺産に登録した。

出来事

  • 16c: ブハラ宮廷で成立
  • 1920: ブハラ・アミール政権崩壊
  • 1950s: ブハラ音楽学校で国立化
  • 1994: Barno Iskhakova Ocora録音
  • 2003: UNESCO無形文化遺産登録

派生・影響

アゼルバイジャン・ムガーム、ペルシャ古典音楽(ラディーフ)、アラブ・マカームと兄弟関係。トルコのfasilとも連続した伝統圏に属する。

音楽的特徴

楽器タンブール(長棹リュート)、ドタール、サトー(弓奏)、ドイラ(枠太鼓)、男声独唱、女声独唱、時に合唱

リズム各マカームは自由リズムのmushkilotから始まり、8拍子〜複合拍のusul(リズム型)を経て加速、器楽と声楽の対置構造

代表アーティスト

  • Turgun Alimatovウズベキスタン · 1945年〜2008
  • Barno Iskhakovaタジキスタン · 1946年〜2001
  • Ari Babakhanovウズベキスタン · 1950年〜2019
  • Ilyas Mallayevウズベキスタン · 1960年〜2008
  • Tavakkal Kabilovウズベキスタン · 1975年〜

代表曲

その後の代表曲

日本との関係

日本での認知は民族音楽学者と限られた愛好家層に留まる。1990年代以降のパリOcora Radio フランス盤、2000年代のSmithsonian Folkways/Aga Khan Trust for Culture盤が輸入盤店で流通したが、大衆的な認知は薄い。日本国内の中央アジア音楽研究では東京藝術大学系の研究者が継続的に紹介しており、Turgun Alimatovは1990年代に来日公演を行った記録がある。UNESCO無形文化遺産登録(2003)後もマス・メディアでの露出は稀で、日本語でのシャシマカーム入門書は限られている。

初めて聴くなら

最初はTurgun Alimatovの独奏録音、Ocora Radio フランスの『Ouzbékistan: Turgun Alimatov』(1996)。タンブール、ドタール、サトーの三楽器を彼一人で弾き分けたソロ盤で、シャシマカーム器楽の最良の一枚だ。声楽側はBarno Iskhakovaの『Musique classique de Boukhara』(Ocora 1994)、Bukharan Jewishの女性歌手が生涯を通して守った様式の記録として貴重。6マカーム全体の把握には、Smithsonian Folkways/Aga Khan Music Initiativeの『シャシマカーム: Music of the Silk Road』シリーズが体系的だ。

豆知識

「シャシ」はタジク語で「6」、「マカーム」はアラビア語・ペルシャ語圏で共有される旋法概念だ。ブハラのユダヤ人コミュニティは中央アジア最古のユダヤ人集団の一つで、その存在はソヴィエト崩壊後の1990年代に大半がイスラエルとNYクイーンズ地区に移住することで一気に希薄化した。クイーンズにはBukharan Jewish文化センターが建てられ、シャシマカームのディアスポラ継承が続いている。State Ensemble of シャシマカーム of Uzbekistanは1961年設立の国立アンサンブルで、ブハラ音楽学校と並び伝承の中軸を成す。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1400年代1600年代1800年代シャシマカームシャシマカームアゼルバイジャン・ムガムアゼルバイジャン・ムガムカザフ・キュイカザフ・キュイ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
シャシマカームを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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