伝統・民族

モルナ

Morna

カーボベルデ / 西アフリカ · 1850年〜

カーボベルデの郷愁的な歌曲で、奴隷貿易の集積港の歴史を背負い、移民とソダーデ(郷愁)を歌う国民的ジャンル。

どんな音か

モルナは静かな弦楽器の伴奏(アコースティックギター、ヴィオラ、カヴァキーニョ)の上に一人の歌い手が乗る。テンポは遅く、曲の多くは4分の3拍子か4分の2拍子で書かれている。声は感情を押しつけず、しかし言葉の一音一音に重みを込める。Cesária Évora(セザリア・エヴォラ)の歌声は低音域に厚みがあり、高音域でも力まない。弦楽器は旋律の隙間を埋めるのではなく、歌の後から静かについていく。ソダーデ(saudade に相当するクレオール語 saudade)という言葉——遠くにあるものへの深い郷愁——が歌詞の核にあり、故郷の島、去っていった恋人、帰らぬ船乗りが題材になる。

生まれた背景

カーボベルデは大西洋の孤島で、15世紀にポルトガルが奴隷貿易の中継基地として開発した。島の住民はアフリカから連れてこられた奴隷の子孫とポルトガル人の混成で、その文化的融合がモルナを生んだ。19世紀半ばごろに現在の形が整ったとされ、ポルトガルファドとの類縁性を持つが独自に発展した。Cesária Évora は1980年代まで地元の小さなバーで歌い続け、50代でフランスのレーベルと契約して世界デビューした。「Sodade」(1992)がヨーロッパで広まったことでカーボベルデ音楽が初めて国際的に認知された。

聴きどころ

Cesária Évora「Sodade」(1992)では、曲が始まってから歌い手が声を出すまでの弦楽器だけの時間に注目してほしい。その静けさの中に入ってくる声が、どれだけ自然に空間と溶け合っているか。旋律は単純だが、歌い手が音の終わりをどこで止めるか(または伸ばすか)によって感情の色が変わる。

発展

1990年代にセザリア・エヴォラがフランス・レーベルのリズム・ミュージックから国際デビューしてから世界的に知られ、2003年のグラミー受賞で最高潮を迎えた。彼女の死後はマヤラ・アンドラージやエルアウトラといった次世代が継承し、2019年にはモルナがユネスコ無形文化遺産に登録された。

出来事

  • 1900s: エウジェニオ・タヴァレスが詩的洗練を確立
  • 1992: セザリア・エヴォラ『ミス・ペルフュメイダ』
  • 2003: 同『ヴォス・アミーガ』でグラミー受賞
  • 2019: ユネスコ無形文化遺産登録

派生・影響

コラデイラ、ファド、ブラジル・モジーニャ、アンゴラ・センバと相互影響。

音楽的特徴

楽器ヴィオラ、カヴァキーニョ、クラリネット、ピアノ、声

リズム緩やかな2/4、悲歌調、クリオール語

代表アーティスト

  • Cesária Évoraカーボベルデ · 1988年〜2011
  • Mayra Andradeカーボベルデ · 2006年〜

代表曲

日本との関係

Cesária Évora は日本でも「はだし の歌姫」として知られ、2000年代に来日公演を行った。ポルトガル音楽(ファド)や「ソウルフルな音楽」に関心のあるリスナーの間で受け入れられた。「Sodade」はヨーロッパの映画やCMで使われたことで、曲として知っている日本人も一定数いる。

初めて聴くなら

Cesária Évora「Sodade」(1992)から入るのが世界標準の入口。続けてMayra Andrade「Storia, Storia」(2010)を聴くと、次世代がモルナをどう受け継ぐかが分かる。Mayra Andrade はフレンチポップやジャズの影響も受けており、音楽的な幅が広い。どちらも夜の静かな部屋で一人で聴くのに合う。

豆知識

Cesária Évora は舞台での靴を履かない習慣があり、これは「貧しいカーボベルデの人々と同じ目線で歌う」という姿勢を示したものとされる。「はだしの歌姫」という愛称はここから来ている。カーボベルデ政府は彼女の死(2011年)後に空港に「Cesária Évora International Airport」と命名し、現在もその名が使われている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1820年代1850年代1930年代モルナモルナファドファドフナナフナナ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
モルナを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

モルナ の系譜全体図(多段)を見る

ジャンル一覧へ戻る