メキシコ・ボレロ
20世紀前半メキシコシティで成立した、トリオ・ロマンティコ(ギター三重奏)が緩やかな2拍子の愛の歌を歌うラテン・アメリカ汎用ロマン歌曲。
どんな音か
メキシコ・ボレロはトリオ(ギター三重奏)が中心で、二本のギターがコードとメロディーを分担し、一本がベースラインを担う。テンポはゆっくりした2拍子で、ギターのコードはなめらかにアルペジオ(分散和音)で弾かれる。歌い手は一人、二人、またはトリオ全員でハモリながら歌う。声は太く丸く、高音域でも張らず、愛の言葉を低く語りかけるように届ける。Agustín Lara(アグスティン・ラーラ)の「Solamente Una Vez」(1941)はピアノ伴奏版も有名で、ギター版と聴き比べると音楽の骨格の違いが分かる。Trio Los Panchos はメキシコ人2名とプエルトリコ人1名で構成され、その声の絡み合いがこのジャンルの理想とされた。
生まれた背景
聴きどころ
Trio Los Panchos「Sin Ti」(1948)では三声のハモリが重なる瞬間に集中してほしい。主旋律の下で二つの声が和声を作り、解決するときに全員の音が落ち着く場所への「到着感」がある。ギターのアルペジオは歌の旋律を飾るのではなく、歌い手が息継ぎする場所をつなぐ役割を持つ。「Bésame Mucho」(1944)はこのジャンルの中で最も世界に知れ渡った曲で、ビートルズも初期にカバーしている。
発展
1940~60年代にアグスティン・ララ、ホセ・アントニオ・メンデス、トリオ・ロス・パンチョスが黄金期を作り、ルイス・ミゲルが1990年代に古典再録音『ロマンセ』(1991)で復興させた。21世紀のラテン・ジャズ、サルサ・ロマンティカにも影響を残す。
出来事
- 1928: アグスティン・ララ作曲開始
- 1944: トリオ・ロス・パンチョス結成
- 1953: 「Solamente Una Vez」世界的ヒット
- 1991: ルイス・ミゲル『ロマンセ』
派生・影響
キューバ・ボレロから派生してメキシコ・ボレロが成立。サルサ・ロマンティカ、ラテン・ジャズ、ランチェラに影響。
音楽的特徴
楽器ギター(複数)、レキント、声
リズム中速2/4ボレロ、ハバネラ低音、ロマン詩
代表アーティスト
- Agustín Lara
- Trio Los Panchos
代表曲
- Granada — Agustín Lara (1932)
- Bésame Mucho — Trio Los Panchos (1944)
- Solamente Una Vez — Agustín Lara (1941)
- Sin Ti — Trio Los Panchos (1948)
Mucho Corazón — Agustín Lara (1944)
日本との関係
初めて聴くなら
Trio Los Panchos「Bésame Mucho」(1944)から始めるのが世界的に最も広い入口。旋律を知った後で「Sin Ti」(1948)を聴くと、三声の絡み合いのより細かい構造が聴き取りやすくなる。夜のインテリアとキャンドルライトが似合う音楽なので、昼間のBGMより夜の鑑賞を勧める。
豆知識
Agustín Laraは顔に大きな傷があり、その傷の由来として「ナイフで切られた」という逸話があるが、確証はない。彼の私生活は波乱に富み、複数の結婚と失恋の経験が「Solamente Una Vez」(たった一度だけ)のような歌詞に反映されているとも言われる。「Bésame Mucho」はコンスエロ・ヴェラスケスが1941年に作曲したとされるが、彼女は当時まだ十代で恋愛経験がほとんどなかったと語っており、想像から書いた曲だという話が伝わっている。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ラテン・カリブランチェラ
