ポップ
マレーポップ
Malaysian Pop
マレーシア / 東南アジア · 1980年〜
別名: Lagu Pop Melayu
マレー語の主流ポップ。Siti Nurhaliza、Faizal Tahirら国民的歌手が代表。
どんな音か
マレーポップ(マレーシアのマレー語ポップ)は、1990年代以降にマレーシア国内で育った、バラード・ロック・R&Bを横断する大衆ポップを指す。BPM60〜100のスローバラードを核に、ストリングス、ピアノ、エレキギターのソロを丁寧に配する、「映画音楽的なポップス」と言える質感だ。声はマレー語特有のなめらかな母音を活かしてビブラートを深くかけ、サビで声を裏返さずに地声のまま押し切る歌唱が好まれる。録音はかなり整音され、ボーカルとピアノをセンターに固めるアジア標準のミックスで、Siti Nurhaliza以降のディーバ系バラードがその完成形だ。
生まれた背景
マレーシアはマレー系・華人系・インド系の三民族国家で、放送と教育におけるマレー語の地位を国策で守ってきた。マレーポップはこの言語政策の音楽的な果実で、1970〜80年代のSudirman Arshadのような国民歌手を経て、1990年代にSiti Nurhalizaが登場、彼女がマレーポップを国際的レベルのバラード歌唱に引き上げた。2000〜2010年代はFaizal Tahirのロック寄りバラードや、Aizat Amdanのフォーキーなシンガーソングライター路線が並走するようになる。隣国インドネシアと言語がほぼ通じ合うので、両国のチャートが相互浸透している点も重要で、マレーポップを語るとき自動的にインドネシア市場が視野に入ってくる。
聴きどころ
Siti Nurhalizaのビブラートをまず聴いてほしい。彼女の声は地声と裏声の境目を曖昧にする独特のコントロールで、これは伝統的なマレー芸能Asli(アスリ)の歌唱法を現代ポップに翻訳したものだ。バラードのコード進行は欧米ポップに近いが、マレー伝統音楽由来の細かい装飾音(chengkok)が随所に挟まれ、これが「西洋ポップではない」感触を生む。Faizal Tahirはもう少し直球のロックバラード歌手で、サビで声を絞り出す押し出しが強い。Aizat Amdanはアコースティック中心で声の距離が近く、ヘッドホン向きだ。
代表アーティスト
- Siti Nurhalizaマレーシア · 1995年〜
- Faizal Tahirマレーシア · 2006年〜
- Aizat Amdanマレーシア · 2008年〜
代表曲
Cindai — Siti Nurhaliza (1997)
Sampai Syurga — Faizal Tahir (2010)
Hanya Kau Yang Mampu — Aizat Amdan (2011)
日本との関係
日本でのマレーポップの認知は極めて薄く、在日マレーシア人や留学生のコミュニティ内に留まっている。Siti Nurhalizaは2000年代に日本でもごく一部のワールドミュージック・コンピに収録されたが、本格的な紹介はほぼ無い。マレーシアの大学では日本のアニメと和食が人気で、若年層がJ-POPに親しんでいる側の片務的関係だ。ただし、藤井風的なメロウなR&Bポップを好む耳には、Aizat Amdanあたりの音は素直に届くはずで、これからSpotifyの東南アジア・プレイリスト経由で日本に染みていく可能性は十分ある。
初めて聴くなら
まずSiti Nurhaliza『Cindai』、伝統音楽Asliと現代ポップを高度に融合させた彼女の代表曲で、マレーポップの核心が30秒で分かる。バラードの王道を知るなら同じくSiti『Bukan Cinta Biasa』。Faizal Tahir『Sampai Syurga』はマレー語ロックバラードの完成形で、サビで声を張り切る男性ボーカルの押し出しが体感できる。Aizat Amdan『Hanya Kau Yang Mampu』は深夜の弾き語り系として向いている。
豆知識
Siti Nurhalizaは1979年生まれ、16歳でデビューしてマレーシアの音楽賞をほぼ独占し、王室から「Datuk(ダトゥッ、女性形はDatin)」の称号を授かった事実上の国民的ディーバだ。マレーシアとインドネシアは言語がほぼ相互理解可能なので、マレーポップとインドネシア・ポップは事実上ひとつの市場を形成しており、Siti Nurhalizaはインドネシアでも国民歌手扱いを受けている。マレー語の「pop」はそのまま英語からの借用だが、伝統音楽寄りのものは「Pop Tradisi」「Irama マレーシア(マレーシアの調べ)」とジャンル分けされる。
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