ゴム
2010年前後ダーバンのタウンシップで生まれた、暗く重たい4/4キックとミニマルなパーカッションが特徴の南アフリカ・ストリート・エレクトロ。
どんな音か
南アフリカ・ダーバン発のダンス音楽で、要素をぎりぎりまで削ぎ落とす。打ち込みの硬いキックが、四つ打ち(全拍に等間隔で打つビート。多くのハウスやテクノの骨格)ではなく、拍をわざとずらし、つんのめるように崩れたリズムに乗る。この前のめりの引っかかりが、テンポの速さに反して曲を重く沈ませる。そこに低く唸るシンセのベースと細かく刻むハイハットが重なる。暗い音色のシンセは同じフレーズを繰り返すだけで、メロディーらしいメロディーはほとんどない。歌もほとんど入らず、録音した短い掛け声やズールー語のフレーズ、コーラスが打楽器のように時おり差し込まれる程度だ。曲尺は4〜6分。徹底して低音を効かせた荒い音作りで、ダーバンの街なかを走る乗り合いの小型バス(ミニバス・タクシー)の大型スピーカーや、夜通し続くストリートパーティで大音量に鳴らすことを想定している。
生まれた背景
2010年前後のダーバン(南アフリカ東岸)で、若いプロデューサーたちがクワイト(クワイト。1990年代の南アフリカ版ハウス)やトライバル・ハウス(打楽器中心のハウス)から要素をそぎ落とし、より単純で反復的な形にしたのが始まりだ。DJ Lag、Rudeboyz、Citizen Boy らが、まだ音楽配信サービスが普及していない時代に WhatsApp や SD カードで曲を手渡しに広め、初期のシーンを築いた。やがて Distruction Boyz が「Omunye」(2017)で同ジャンルを南アフリカの主流に押し上げる。2015〜16年には海外のクラブ系レーベル(イタリアの Gqom Oh! など)が拾い上げ、ダーバンの外へ広がっていった。そして2019年、Beyoncé のアルバム『The Lion King: The Gift』収録の「My Power」(Moonchild Sanelly らをフィーチャー)に DJ Lag が共同プロデュースで参加する。タウンシップの手渡し文化から生まれた音が、世界最大級のポップスターの作品にまで届いた——その距離の大きさこそ、ゴムの物語の核だ。
聴きどころ
まずキックに耳を傾けてほしい。最初の8小節で、指でビートを数えながら拍の頭に合わせようとすると、キックがどうしてもそこに乗ってこない。等間隔の拍からわずかにずれて落ちるからで、その「合わなさ」こそが狙いだ。旋律はほぼ飾り程度で、歪ませたシンセが短い一節を、欧米のダンス音楽よりはるかに長く繰り返す。歌が入っても、メロディーを聴かせるためというより、リズムを埋める要素に近い。大音量のクラブで聴いてはじめて、この音楽の全体像が立ち上がる。
発展
2014年ロサンゼルス・レーベル「ロサンゼルス・スーパー・ロウ」と英国「ローヤル」が国際盤を出し、グライムやベース・ミュージックと並列に紹介された。2018年ビヨンセ『ライオン・キング ザ・ギフト』への参加でメインストリーム化が一気に進む。
出来事
- 2010: ダーバンの DJ ナクラニ初期作品
- 2014: 「Gqom Oh!」コンピレーション国際発売
- 2018: ビヨンセ『ライオン・キング ザ・ギフト』
- 2020: アマピアノとの共生関係
派生・影響
クワイト、アフロ・ハウス、グライム、後のアマピアノに影響。
音楽的特徴
楽器ドラムマシン、サンプラー、シンセ、声
リズム暗いシンセ、4/4キック、断片的詠唱
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- DJ Lag
- Distruction Boyz
代表曲
- Ice Drop — DJ Lag (2016)
Omunye — Distruction Boyz (2017)
Khona — DJ Lag (2018)
8AM in Durban — DJ Lag (2019)
Ngiyaz'fela Ngawe — Distruction Boyz (2017)
日本との関係
初めて聴くなら
1曲だけ聴くなら、DJ Lag『Ice Drop』(2016)。海外進出のきっかけとなった代表曲だ。Distruction Boyz『Omunye』(2017)もシーン定番。コンピレーションなら『Gqom Oh!』シリーズ(2015〜)。
豆知識
「Gqom」はズールー語で「ドラム」「打音」を意味する。ジャンル名そのものが音を表す擬音語という、珍しい例だ。ダーバンの公共交通である乗り合いの小型バス(ミニバス・タクシー)から大音量で流れる音が、若者にとってこの音楽との出会いの中心だった。
