宗教・霊歌

梵唄(ファンバイ)

Fanbei (Chinese Buddhist Chant)

中国 / 東アジア · 250年〜

中国仏教の儀礼で行われる、漢訳経典の朗詠伝統。東アジア仏教声明の祖型。

どんな音か

漢訳経典(心経や法華経など)の文語中国語を、朗誦というより『唱え込む』。各字句が持つ『音数』と『声調(四声)』に沿って旋律が決まり、結果として『リズムが言語から自動生成される』。声の『厚さ』は保たれながら、音域を大きく使い、低音部で『ハミング的な共鳴』を作る。宗教的な『祈りの場』であると同時に、『音響実験の場』でもある。

生まれた背景

梵唄は、インドのサンスクリット詩を漢語に翻訳する過程で、3世紀から6世紀にかけて中国で形成された。『梵』はサンスクリット、『唄』は唱うという意味。以降、日本・朝鮮・ベトナムなど東アジア全域の仏教音楽に影響を与えたが、中国本土では Cultural Revolution で一度は衰退した。1980年代以降、寺院での儀礼復興とともに、若い僧侶への伝承が再開された。

聴きどころ

中国語の『四声(高・上・去・入)』が、旋律の『上下運動』に直結している。もし聴き手が中国語を多少理解するなら、『文字の音声化』としての梵唄の構造が明確に聞こえる。また、集団唱であっても『各僧侶の声の個性』が消えず、その『個と全体の交差』が音響的美しさを生み出している。

発展

唐代(7-10世紀)に最盛期を迎え、日本・朝鮮・ベトナムへ伝来。宋代には禅宗の独自儀礼音楽として再編集され、明清期に現在の主要宗派様式が固定した。1949年以降の中国本土では文革期に大打撃を受け、1980年代以降復興、台湾・香港・シンガポール・マレーシアの華人仏教共同体で活発に継承される。

出来事

  • 230頃: 曹植、漁山で梵唄創始(伝承)
  • 7世紀: 玄奘三蔵帰国後、唐の梵唄整備
  • 1981: 中国仏教協会、儀礼復興運動開始
  • 2008: 印能法師らによる現代梵唄録音世界化

派生・影響

日本声明、韓国梵唄、ベトナム仏教声明、近年の中華圏スピリチュアル・ポップ(印能法師ら)など東アジア仏教音楽全体の祖型。

音楽的特徴

楽器男声・尼僧合唱、磬、木魚、引磬、太鼓

リズム自由リズム、漢音旋法、宗派別様式、儀礼節次

代表アーティスト

  • Master Imee (印能法師)中国(台湾) · 2002年〜

代表曲

日本との関係

日本の仏教声明(特に浄土真宗や日蓮宗の儀礼音楽)は、実は梵唄の直系の子孫。つまり、日本の聴き手が梵唄を聴けば、『遠い親戚の声』を聴いているという言語学的事実がある。ただし、その系統性への認識は、専門家層に限定されている。一般的には『中国の宗教音楽』として認識されることが多い。

初めて聴くなら

Master Imee(印能法師)の『Heart Sutra(Mandarin)』。最も有名な経典を、正統的な梵唄で唱えたもの。朝の瞑想時間帯に聴くと、『音の波動』と『心の静止』が同期する。20~30分の長さを一気聴きすることを推奨。

豆知識

梵唄は『暗譜による伝承』を原則としており、楽譜化・レコーディング化されたのは20世紀後半になってから。つまり、1980年代以前に梵唄を『知ること』は、実際にお寺に足を運ぶしかなかった。現在のように音声ファイルで気軽に聴ける状況は、伝統的には『ありえなかった』もの。

影響・派生で結ばれたジャンル

梵唄(ファンバイ)を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

梵唄(ファンバイ) の系譜全体図(多段)を見る

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