梵唄(ファンバイ)
中国仏教の儀礼で行われる、漢訳経典の朗詠伝統。東アジア仏教声明の祖型。
どんな音か
漢訳経典(心経や法華経など)の文語中国語を、朗誦というより『唱え込む』。各字句が持つ『音数』と『声調(四声)』に沿って旋律が決まり、結果として『リズムが言語から自動生成される』。声の『厚さ』は保たれながら、音域を大きく使い、低音部で『ハミング的な共鳴』を作る。宗教的な『祈りの場』であると同時に、『音響実験の場』でもある。
生まれた背景
聴きどころ
中国語の『四声(高・上・去・入)』が、旋律の『上下運動』に直結している。もし聴き手が中国語を多少理解するなら、『文字の音声化』としての梵唄の構造が明確に聞こえる。また、集団唱であっても『各僧侶の声の個性』が消えず、その『個と全体の交差』が音響的美しさを生み出している。
発展
唐代(7-10世紀)に最盛期を迎え、日本・朝鮮・ベトナムへ伝来。宋代には禅宗の独自儀礼音楽として再編集され、明清期に現在の主要宗派様式が固定した。1949年以降の中国本土では文革期に大打撃を受け、1980年代以降復興、台湾・香港・シンガポール・マレーシアの華人仏教共同体で活発に継承される。
出来事
- 230頃: 曹植、漁山で梵唄創始(伝承)
- 7世紀: 玄奘三蔵帰国後、唐の梵唄整備
- 1981: 中国仏教協会、儀礼復興運動開始
- 2008: 印能法師らによる現代梵唄録音世界化
派生・影響
日本声明、韓国梵唄、ベトナム仏教声明、近年の中華圏スピリチュアル・ポップ(印能法師ら)など東アジア仏教音楽全体の祖型。
音楽的特徴
楽器男声・尼僧合唱、磬、木魚、引磬、太鼓
リズム自由リズム、漢音旋法、宗派別様式、儀礼節次
代表アーティスト
- Master Imee (印能法師)
代表曲
Heart Sutra (Mandarin) — Master Imee (印能法師)
日本との関係
初めて聴くなら
Master Imee(印能法師)の『Heart Sutra(Mandarin)』。最も有名な経典を、正統的な梵唄で唱えたもの。朝の瞑想時間帯に聴くと、『音の波動』と『心の静止』が同期する。20~30分の長さを一気聴きすることを推奨。
豆知識
梵唄は『暗譜による伝承』を原則としており、楽譜化・レコーディング化されたのは20世紀後半になってから。つまり、1980年代以前に梵唄を『知ること』は、実際にお寺に足を運ぶしかなかった。現在のように音声ファイルで気軽に聴ける状況は、伝統的には『ありえなかった』もの。
