チベット仏教声明
チベット仏教(主にゲルク派・カギュ派・ニンマ派)の儀礼で行われる、深い倍音を含む集団詠唱。
どんな音か
男性僧侶が低い音域で唱える集団詠唱で、通常のバス音域より一段低い「倍音唱法(ドンチュン)」が最大の特徴。一人の声から基音と倍音を同時に共鳴させ、うなるような低音の上に高い笛のような音が浮かぶ。複数の僧侶が同時に唱えると、それぞれの倍音が絡み合って非常に厚い音響になる。低い金管楽器「ラッパ(ドゥンチェン)」や太鼓「ンガ」、シンバル「ロルモ」が儀礼の節目に加わり、詠唱に輪郭を与える。テンポは極めてゆっくりで、一つの音節が数秒以上続くこともある。
生まれた背景
聴きどころ
Gyütö Tantric Choirの録音では、まず全員の低音が一斉に鳴り始める瞬間の音の壁に注目するとよい。そこから耳を澄ますと、低音の上に浮かぶ高い倍音の音列が聴こえてくる。太鼓とシンバルが入るタイミングで詠唱のセクションが切り替わるので、そこを聴き流さずに待つとよい。
発展
15-16世紀ツォンカパらによりゲルク派ギュト・ギュメ僧院制度が整備され、ダライ・ラマの個人儀礼にも関わる。1959年中国占領後に多くの僧侶がインドへ亡命し、ダラムサラ・南インド・ネパール等で再建され、1980年代以降の欧米ツアーで世界に知られた。フィリップ・グラスら西洋作曲家とも共同作業を行った。
出来事
- 747: パドマサンバヴァ、チベット入り(伝承)
- 1414: ツォンカパによるゲルク派確立
- 1959: チベット蜂起・亡命、伝承移転
- 1986: ギュト僧院、米欧公演で世界注目
派生・影響
西洋ニュー・エイジ音楽の倍音発声興味、ミニマリスト・現代音楽の長尺持続音発想、ヨガ・瞑想音楽など多分野に影響。
音楽的特徴
楽器男声合唱、ドゥンチェン(長ホルン)、ガンリン、ロル・ヤク、ダマル、シンバル、太鼓
リズム倍音発声、自由リズム、低音持続、儀礼周期
代表アーティスト
- Gyütö Tantric Choir
代表曲
Gyütö Tantric Choir Live — Gyütö Tantric Choir (1989)- Mahakala Puja — Gyütö Tantric Choir (1995)
日本との関係
初めて聴くなら
Gyütö Tantric Choirの「Mahakala Puja」(1995年)から入るとよい。儀礼全体の流れの中に倍音唱法とラッパ・太鼓が組み合わさる場面があり、この音楽の全体像がつかめる。夜に部屋を暗くして聴くと、低音の振動が体に届きやすい。
豆知識
チベットの倍音唱法(ドンチュン)は、通常の声楽では不可能とされていた「一人で二つの音を同時に出す」技術である。西洋の音響学者が初めてこの録音を分析したとき、機材の故障かと疑ったという逸話が残っている。モンゴルのホーメイやトゥバのホーメイと共鳴する技術だが、チベットの場合は音域がより低く、礼拝目的に特化している点が異なる。
