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伝統・民族

ダンドゥット・コプロ

Dangdut Koplo

スラバヤ、シドアルジョ、Pantura沿岸諸都市 / インドネシア / 東南アジア · 2003年〜

別名: Koplo / Dangdut Pantura / コプロ / ダングドゥット・コプロ / ダンドゥットコプロ

2000年代東ジャワの Pantura 街道沿いで生まれた、速い kendang パターンと電子オルガンを軸にした dangdut の高速変種。Via Vallen《Sayang》(2017)が10億再生。

どんな音か

ダンドゥット・コプロの音は、Rhoma Irama 時代(1970年代)の原初のダングドゥットを聴いた耳には「同じ楽器なのに走っている」ように聞こえる。テンポは130-150 BPM前後、原初 dangdut より20-30 BPM速い。kendang(両面太鼓)は「ダッダッダッダッ」と細かい8分音符連打(cak-cek パターン)を刻み、時に楽節の途中で独立したソロを取る。電子オルガン(Yamaha PSR、Roland E-シリーズ)はスチール・ギターと絡み合いながらメインのメロディを作り、シンセベースが低音を敷き、女性ボーカルがジャワ語/インドネシア語の日常口語で失恋・浮気・貧困・出稼ぎ生活を歌う。ライブでは女性ボーカルの前に「goyang(揺らし)」と呼ばれるダンスを踊る観客(または補助ダンサー)が配置され、視覚と音が不可分の総合芸術として設計されている。

生まれた背景

起点は2000年代初頭、東ジャワ北岸の Pantura 街道(スラバヤ〜ジャカルタを結ぶ幹線道路)沿いで、旅回りの orkes melayu(移動 dangdut 楽団)——Om Sagita(2001年 Jombang 結成)、Om New Pallapa、Om Monata——が dangdut のリズムを kendang 奏者の即興的な速いパターン(いわゆる koplo)で崩し始めた時だ。同時期の2003年、Inul Daratista(1979-)の goyang ngebor(スクリュー・ダンス)論争がジャカルタ中央で全国的な dangdut 論争を引き起こし、Rhoma Irama を頂点とする「正統派」と、地方の kendang 主導の速い変種の対立軸が可視化された。海賊版VCDが Pantura 沿岸の音楽経済を支え、2010年代前半、Via Vallen(1991-)が Om Sera のリード・ボーカルとして頭角を現し、2017年の《Sayang》がYouTubeで10億再生を突破する史上最大級のヒットとなった。並走して Nella Kharisma(1995-)、Happy Asmara(1999-)らの世代が、ジャワ語日常口語と koplo リズムの組み合わせを TikTok 世代の共通語彙に押し上げた。

聴きどころ

第一に、kendang パターンを追う。koplo の kendang は伝統的な gong-based ガムラン打楽器の系譜だが、Java 東部の民間演芸(jaipong 系の打法)を経由して高速化された。ソロを取る箇所では kendang 奏者がジャズ・ドラマーのような即興性を発揮する。第二に、電子オルガンの音色。1990年代の dangdut は生バンド編成が主流だったが、ダンドゥット・コプロは Yamaha PSR に代表される安価な電子キーボードの東地中海系「オリエンタル」音色を積極的に活用する。第三に、女性ボーカルの装飾。cengkok(ジャワ声楽の装飾句)と、dangdut 特有の「cengok」(音の終わりを引き伸ばして落とす)の中間の唱法で、Via Vallen と Nella Kharisma はこの領域の異なる規範を代表する。第四に、goyang ダンスとの相互作用——音楽が視覚的リズムを予告する構造は、ライブ映像で確認するとより明確になる。

発展

2015年前後、若手女性ボーカルの世代が登場する。Via Vallen(1991-、Sidoarjo)は Om Sera からデビューし、2017年の《Sayang》(原曲は Thai の Kang Somphoch)がYouTube で10億再生を超えるインドネシア史上最大の音楽ヒットの一つとなった。Nella Kharisma(1995-、Kediri)は《Jaran Goyang》(2017)《Bojo Galak》(2017)で並走、Happy Asmara(1999-、Kediri)は 2020年代のリード・ボーカルとなった。同時期、campursari 側の Denny Caknan(1993-)がジャワ語ポップと koplo を融合させ、TikTok 経由で「koplo Pantura の東ジャワ・ジャワ語」を若年層の共通語彙に押し上げた。2020年代、Om Adella、Om Bintang Pantura といった新世代の orkes が YouTube で数十億再生を集め、K-pop 曲や英語ヒット曲の 「koplo remix」 も一次流通形式として成立している。

出来事

  • 2001: Om Sagita 結成(Jombang)
  • 2003: Inul Daratista「goyang ngebor」現象
  • 2015: Via Vallen 「Om Sera」時代の頭角
  • 2017: Via Vallen《Sayang》10億再生、Nella Kharisma《Jaran Goyang》
  • 2019: Denny Caknan《Kartonyono Medot Janji》(koplo × campursari)
  • 2020年代: Happy Asmara、Om Adella の TikTok 拡散

派生・影響

ダングドゥット (dangdut)、マレー・オルケス (orkes melayu) の直接の子孫。チャンプルサリ (campursari) と2020年代には融合的関係。ベトナムの vinahouse(ハノイ 140-150BPMダンス)と TikTok 時代の姉妹現象。

音楽的特徴

楽器kendang(両面太鼓、koplo パターンの主役)、電子オルガン(Yamaha PSR、Roland E-シリーズ)、スチール・ギター、エレキベース、シンセ、時にサックス、女性ボーカル主導

リズム130-150 BPM の速い4/4、kendang の細かい8分音符連打(cak-cek パターン)、時に kendang が独立したソロ楽節を持つ

代表アーティスト

  • OM Sagitaインドネシア · 2001年〜
  • OM New Pallapaインドネシア · 2003年〜
  • OM Seraインドネシア · 2004年〜
  • Nella Kharismaインドネシア · 2013年〜
  • Via Vallenインドネシア · 2013年〜
  • OM Adellaインドネシア · 2015年〜
  • Denny Caknanインドネシア · 2018年〜
  • Happy Asmaraインドネシア · 2018年〜

代表曲

  • OM New Pallapa LiveOM New Pallapa (2010)
  • Om Sagita Live Jombang 2005OM Sagita (2005)

その後の代表曲

日本との関係

日本でのダンドゥット・コプロ受容には、明確な回路が存在する。2020年代の在留インドネシア人(2024年時点で約23万人、10年で3倍化)の中で、東ジャワ出身の技能実習生・特定技能労働者が koplo の主要消費層となっている。関東(千葉・埼玉)や東海(愛知・岐阜)のインドネシア料理店・食材店では、Via Vallen《Sayang》や Nella Kharisma《Bojo Galak》がBGMとして日常的に流れ、koplo は「日本で暮らすインドネシア人の家郷の音」として機能している。2018年ジャカルタ・アジア大会で Via Vallen が公式ソング《Meraih Bintang》を歌った際、日本人観光客・スポーツ関係者の耳にも koplo が届いた。TikTok の日本語圏でも「インドネシア koplo remix」のバイラルは断続的に起こっており、koplo は日本の若年層に「東南アジアの現代大衆音楽の音」として少しずつ浸透している段階にある。

初めて聴くなら

まず Via Vallen《Sayang》(2017、Om Sera 期の音源)から。YouTube の Ascada Musik チャンネル公式アップロードが標準的。次に Nella Kharisma《Jaran Goyang》(2017)と《Bojo Galak》(2017)を通じ、koplo の「規範形」を耳に入れる。深く入るなら Happy Asmara《Dermaga Biru》(2020)、Denny Caknan《Ninggal Tatu》(2021、campursari-koplo 融合の見本)、そして Om Adella や Om Sera のライブ音源(YouTube に多数)。原初形態を知るには Om Sagita 系の2000年代前半の Pantura ライブ音源(音質は不安定だが koplo の起源が聞き取れる)。

豆知識

ダンドゥット・コプロ」の語源はジャワ語で「muddled、confused、intoxicated」の意で、もともとは「koplo pil」(睡眠薬・向精神薬の俗称)から来ているとされる。1990-2000年代の東ジャワ地方でこの薬物と結びついた「koplo party」が路上の orkes melayu と接続し、そこで演奏された速い kendang パターンの音楽が「koplo」と呼ばれるようになった、という説が有力だ(ただし異説あり)。もう一つ:Via Vallen《Sayang》の10億再生達成は2018年11月で、これはインドネシア音楽史上、YouTube 10億再生を突破した最初のインドネシア語楽曲の一つ。2010年代の東南アジア YouTube 経済圏で、Tay Sokun(タイの原曲作者)から Via Vallen(koplo 編曲者)へと歌が旅する越境の記録として、音楽産業史的にも重要な事例になっている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図800年代2000年代ダンドゥット・コプロダンドゥット・コプロガムランガムラン凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ダンドゥット・コプロを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

ダンドゥット・コプロ の系譜全体図(多段)を見る

同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

インドネシア · 2003年前後 (±25年)