古典派協奏曲
独奏者と管弦楽が対話する古典派の協奏曲形式。モーツァルトのピアノ協奏曲が頂点。
どんな音か
古典派の協奏曲は、独奏楽器(ピアノ、ヴァイオリン、クラリネットなど)とオーケストラが「対話」する形式だ。オーケストラが主題を提示し、独奏楽器がそれを受け取って変形・発展させ、また全体へ戻す。この往復が三楽章の枠組みの中で繰り返される。第一楽章は通常ソナタ形式で、独奏者がカデンツァ(独奏の即興的な見せ場)を演じる部分が特に注目される。第二楽章は遅く歌うような旋律が中心で、弦楽がピチカートで静かに支えることが多い。第三楽章は速くリズミカルで、コンサートを明るく締めくくる。音量の差が大きく、オーケストラ全奏(トゥッティ)と独奏の間の振れ幅が広い。
生まれた背景
協奏曲(コンチェルト)という形式はバロック期にヴィヴァルディらが確立したが、古典派協奏曲の特徴として「二重提示部」(オーケストラと独奏が別々に主題を提示する)が定着したのは18世紀後半、ハイドンやモーツァルトの時代だった。特にモーツァルトは27曲のピアノ協奏曲を書き、ピアノとオーケストラの役割を精緻に再定義した。ベートーヴェンはその枠をさらに拡張し、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」(1809年)では独奏者の技巧と音楽的内容の両方を極限まで押し上げた。19世紀に入るとピアノの製造技術が向上し、演奏可能な音量と音域が広がったことが、協奏曲の表現をより大きくする後押しをした。
聴きどころ
第一楽章のカデンツァが最初の聴きどころ。独奏者がオーケストラなしで即興的に演奏する場面で、曲全体の主題をどう組み合わせて展開するかが演奏家の個性として現れる。モーツァルトの『ピアノ協奏曲第20番』(K.466)では第一楽章の冒頭でオーケストラが低音域を弱音で刻む不穏な開始をし、ピアノが入ってくる瞬間の対比が鮮やかだ。ベートーヴェンの「皇帝」では冒頭から独奏ピアノが巨大な和音で宣言するように始まり、当時の聴衆を驚かせた。
発展
J.C.バッハ、モーツァルト27曲のピアノ協奏曲が規範を作り、ベートーヴェンが第3〜5番で交響曲的拡張を行った。ヴァイオリン協奏曲ではモーツァルトK.216-219、ベートーヴェン作品61が古典型を示した。19世紀以降はロマン派協奏曲へ規模・技巧が拡張されていく。
出来事
- 1777: モーツァルト「ピアノ協奏曲第9番(ジュノーム)」 K.271
- 1785: モーツァルト「ピアノ協奏曲第20番」 K.466
- 1809: ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番(皇帝)」
- 1844: メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲ホ短調」初演
派生・影響
ロマン派協奏曲(メンデルスゾーン、ブラームス、チャイコフスキー)、20世紀の協奏曲(バルトーク、プロコフィエフ)まで連続的に発展した。
音楽的特徴
楽器独奏者、管弦楽
リズム二重提示部、3楽章、独奏カデンツァ
代表アーティスト
- ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
- ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
- フェリックス・メンデルスゾーン
代表曲
- ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K. 467 — ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1785)
- ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K. 466 — ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1785)
- ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61 — ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (1806)
- ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」 — ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (1809)
日本との関係
初めて聴くなら
モーツァルトの『ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466』(1785年)が入門として優れている。短調の曲で感情の起伏が明確で、「オーケストラとピアノの対話」が聴き取りやすい。続けてベートーヴェンの「皇帝」へ進むと、規模と感情表現がどれほど拡大したかが対比できる。夜に集中して聴くなら第二楽章だけ取り出して聴いてみると、弦楽の静かな伴奏とピアノの歌い方の美しさが際立つ。
豆知識
モーツァルトが生涯で演奏会用に書いたピアノ協奏曲のほとんどは、自分が独奏者として演奏するために作られた。つまり楽譜に記されたカデンツァの箇所は当初白紙で、彼自身がその場で即興した。現在演奏されるカデンツァのいくつかは後世の演奏家や作曲家が追加したものであり、モーツァルト本人が弾いたカデンツァが残っているのはほんのわずかにすぎない。
