独奏協奏曲(バロック)
ひとりの独奏者と合奏が対峙する協奏曲形式。ヴィヴァルディが標準モデルを確立した。
どんな音か
バロックの独奏協奏曲は、一人の独奏者と合奏が対話し、ときに競い合う器楽形式。リトルネッロと呼ばれる合奏の主題が戻り、その間で独奏楽器が技巧や歌を見せる。ヴィヴァルディの「四季」では、ヴァイオリンが鳥、嵐、風、眠りを描き、バッハでは構造がより濃密に組み上がる。
生まれた背景
聴きどころ
合奏が主題を示し、独奏がそこから飛び出す瞬間を聴くとよい。速い楽章では独奏の運動性、遅い楽章では歌うような線が中心になる。通奏低音が拍を支えるため、独奏が自由に見えても足場はしっかりしている。
発展
トレッリ作品6・8(1698・1709)が独奏協奏曲の原型を示し、ヴィヴァルディ「調和の霊感」作品3(1711)と「四季」(1725)が決定版モデルを示した。バッハはヴィヴァルディ作品を鍵盤独奏に編曲して学習し(BWV972ff.)、自身の独奏協奏曲(BWV1041〜1043)に活かした。テレマン、ヘンデル、ロカテッリも各国で発展に寄与した。
出来事
- 1698: トレッリ「6つの協奏曲」作品6
- 1711: ヴィヴァルディ「調和の霊感」作品3出版
- 1725: ヴィヴァルディ「四季」(作品8の1〜4)出版
- 1738: バッハ、ライプツィヒでチェンバロ協奏曲を上演
派生・影響
古典派モーツァルト・ピアノ協奏曲、ロマン派ヴァイオリン協奏曲(ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー)など、独奏協奏曲伝統の祖形となった。
音楽的特徴
楽器弦楽合奏、通奏低音、独奏者
リズムリトルネロ形式、急‐緩‐急の3楽章
代表アーティスト
- アントニオ・ヴィヴァルディ
- ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
代表曲
- 四季「春」 作品8-1 — アントニオ・ヴィヴァルディ (1725)
- 調和の霊感 作品3-6 — アントニオ・ヴィヴァルディ (1711)
- オーボエ協奏曲ニ短調 (1717)
- ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV 1041 — ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1730)
- チェンバロ協奏曲ニ短調 BWV 1052 — ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1738)
日本との関係
日本ではクラシック入門として「四季」が非常に親しまれている。ヴァイオリン学習者にも重要なレパートリーで、バッハの協奏曲は室内オーケストラや古楽演奏でよく取り上げられる。テレビやCMで耳にする機会も多い。
初めて聴くなら
入口は「四季『春』作品8-1 — アントニオ・ヴィヴァルディ (1725)」。形式の明快さと描写性が分かりやすい。バッハの深さを聴くなら「ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV 1041 — ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1730)」。鍵盤協奏曲では「チェンバロ協奏曲ニ短調 BWV 1052」もよい。
豆知識
独奏協奏曲は、ソリストをスターにする形式でもあった。合奏の中から一人が前へ出る構造は、のちのクラシック音楽の名人芸文化にも大きくつながっている。 バロック時代の協奏曲は、楽器の性能や奏者の名人芸を披露する場でもあり、独奏楽器の個性を広げる実験室でもあった。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 古典オペラ・セリア
