古典

合奏協奏曲

Concerto Grosso

ローマ / イタリア / 南欧 · 1670〜1750年

バロック期に確立した、独奏グループ(コンチェルティーノ)と合奏(リピエーノ)の対比を核とする協奏曲形式。

どんな音か

合奏協奏曲は「独奏グループ(コンチェルティーノ)」と「合奏全体(リピエーノ)」の音量と密度の対比を核に据えた形式だ。コンチェルティーノは通常2〜3名の独奏者(ヴァイオリン2本とチェロなど)で構成され、リピエーノは弦楽合奏と通奏低音(チェンバロやオルガン)から成る。両者の交替は電球が点滅するように突然で、特にバロック期の演奏では音量の落差がはっきりしている。テンポは速い楽章と遅い楽章が交互に並ぶことが多く、ヴィヴァルディ様式では全体が3〜4楽章でコンパクトにまとまる。チェンバロの通奏低音は曲の全体を通して鳴り続け、和声の「土台」として機能するが、現代の録音では埋もれがちで注意を向けないと聴き落とすことがある。

生まれた背景

合奏協奏曲の形式を理論化し広めたのはアルカンジェロ・コレッリ(1653〜1713年)で、彼の『作品6』(1714年出版)12曲が形式の基準点とされる。ただしコレッリより前にもこの形式の原型はあり、ヴェネツィアやローマの弦楽合奏の実践から自然発生した可能性が高い。18世紀初頭にはヘンデル、テレマン、ヴィヴァルディが各自の様式で多数の合奏協奏曲を書き、ドイツではバッハが「ブランデンブルク協奏曲」(1721年)6曲でこの形式を高度に発展させた。18世紀後半になると独奏協奏曲(一人の独奏者とオーケストラ)がより一般化し、合奏協奏曲は古い様式として後退していった。

聴きどころ

コンチェルティーノとリピエーノの交替のタイミングと音量差を追う。バッハの『ブランデンブルク協奏曲第3番 BWV 1048』(1721年)では弦楽のみ(ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ各3本)で対位法的に構成され、特定の独奏者がいないユニークな形をとる。コレッリの『クリスマス協奏曲 作品6-8』はパストラーレ(田園風)楽章で9/8拍子の揺れが心地よく、バロック合奏曲の入門として最も親しみやすい。

発展

コレッリ「12の合奏協奏曲」作品6(1714年出版、作曲は17世紀末)が古典的型を示し、ヘンデル作品6(1739)が劇的・モニュメンタルな到達を見せた。バッハ「ブランデンブルク協奏曲」(1721)は独奏編成を多彩に変化させた特殊例。18世紀後半には独奏協奏曲に主役を譲り、形式自体は古典派以降ほぼ廃れた。

出来事

  • 1681: コレッリ「トリオ・ソナタ」作品1出版、後の協奏曲書法の準備
  • 1714: コレッリ「合奏協奏曲」作品6出版(没後)
  • 1721: バッハ「ブランデンブルク協奏曲集」献呈
  • 1739: ヘンデル「合奏協奏曲」作品6

派生・影響

独奏協奏曲、後の古典派交響曲・協奏曲の基礎構造(リトルネロ・ソナタ形式)を準備した。20世紀には新古典主義のストラヴィンスキー「ダンバートン・オークス協奏曲」やシュニトケ「合奏協奏曲」シリーズで現代的に再解釈された。

音楽的特徴

楽器弦楽合奏、通奏低音、独奏弦楽器群

リズムリトルネロ形式、急‐緩‐急、対位法

代表アーティスト

  • アルカンジェロ・コレッリイタリア · 1675年〜1713
  • アントニオ・ヴィヴァルディイタリア · 1700年〜1741
  • ゲオルク・フィリップ・テレマンドイツ · 1700年〜1767
  • ヨハン・ゼバスティアン・バッハドイツ · 1703年〜1750
  • ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルドイツ/イギリス · 1705年〜1759

代表曲

  • クリスマス協奏曲 作品6-8アルカンジェロ・コレッリ (1714)
  • 合奏協奏曲ニ長調 作品6-4アルカンジェロ・コレッリ (1714)
  • ブランデンブルク協奏曲第3番 BWV 1048ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1721)
  • ブランデンブルク協奏曲第5番 BWV 1050ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1721)
  • 合奏協奏曲ト短調 HWV 319ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル (1739)

日本との関係

NHK-FMや音楽教育の場でバロック音楽として紹介されることが多く、「バッハ」や「ヴィヴァルディ」の名前は日本でも広く知られている。合奏協奏曲という形式名は専門家以外には馴染みが薄いが、ブランデンブルク協奏曲やヴィヴァルディの「四季」(協奏曲集)は日本でも人気の高い演目だ。

初めて聴くなら

コレッリの『クリスマス協奏曲 作品6-8』(1714年)は全楽章で20分程度で、バロック弦楽の音色に慣れる入門として最適。続けてバッハの『ブランデンブルク協奏曲第3番 BWV 1048』を聴くと、コレッリとは異なる対位法的な密度に気づく。どちらも夜のリラックスした時間に向いているが、音量を少し上げると各声部の絡み合いが聴こえやすくなる。

豆知識

バッハの「ブランデンブルク協奏曲」の名称は、バッハがブランデンブルク辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒに献呈したことに由来する。しかし辺境伯はこの楽譜を実際に演奏させた形跡がほとんどなく、長らく楽譜は図書館の棚に眠ったままだったとされる。コレッリは生涯でローマを拠点に活動し、イタリア全土に弟子を送り出したことで、バロック弦楽のスタイルを欧州全体に広めた。

影響・派生で結ばれたジャンル

合奏協奏曲を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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