シュトゥルム・ウント・ドランク
1760年代末〜70年代の中央ヨーロッパで、激情的な表現を志向した古典派音楽の一潮流。
どんな音か
シュトゥルム・ウント・ドランクは、1760年代末から1770年代の中央ヨーロッパで見られる激情的な表現傾向。文学運動の名を借りて、短調、急激な強弱、シンコペーション、荒いユニゾン、緊張した和声を持つ古典派音楽を指す。整った古典派のイメージとは違い、若いモーツァルトやハイドンの作品には不安と嵐の感覚がある。
生まれた背景
啓蒙主義的な均整だけではなく、個人の感情、自然、反抗を重んじる時代の空気が背景にある。ハイドンの短調交響曲群やモーツァルトの交響曲第25番は、この激情的な側面をよく示す。後のロマン派を直接先取りしたというより、古典派の内部にある感情の陰影が一時的に強く表れた潮流と考えるとよい。
聴きどころ
短調の緊張とリズムの切迫を聴く。弦が細かく震え、強弱が急に変わり、整ったフレーズの中に不安が差し込む。古典派だから穏やかだと思って聴くと、意外な激しさに驚くはずだ。展開部で主題が追い詰められる感じや、静かな部分に残る緊張にも注目したい。
発展
ハイドン交響曲第44番(悲しみ)、第45番(告別)、第49番(受難)が中心作で、モーツァルト交響曲第25番ト短調 K.183(1773)も典型例。1780年代以降は古典派の均衡へ吸収されたが、ベートーヴェン初期作品(「悲愴ソナタ」)にその精神が継承された。
出来事
- 1771: ハイドン「交響曲第44番(悲しみ)」
- 1772: ハイドン「交響曲第45番(告別)」
- 1773: モーツァルト「交響曲第25番」 K.183
- 1774: ゲーテ「若きウェルテルの悩み」
派生・影響
ベートーヴェンの劇的様式、ロマン派全般の感情表現志向、後の表現主義音楽(マーラー、シェーンベルク)へ遠く影響している。
音楽的特徴
楽器管弦楽、室内楽
リズム短調、急激なダイナミクス、半音階
代表アーティスト
- ヨーゼフ・ハイドン
- ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
代表曲
- 交響曲第49番 ヘ短調「受難」 — ヨーゼフ・ハイドン (1768)
- 交響曲第45番 嬰ヘ短調「告別」 — ヨーゼフ・ハイドン (1772)
- 交響曲第25番 ト短調 K. 183 — ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1773)
日本との関係
日本では音楽史の授業やクラシック解説で、ハイドン、モーツァルトの短調作品を説明する際に登場する。演奏会では用語を知らなくても、「モーツァルト第25番」の鋭い冒頭は映画などで聴いた人が多い。古典派を優雅なBGMとしてだけでなく、ドラマを持つ音楽として聴き直すきっかけになる。
初めて聴くなら
入口は「交響曲第25番 ト短調 K. 183 — ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1773)」。冒頭から切迫感が強く、様式の特徴が分かりやすい。ハイドンなら「交響曲第45番 嬰ヘ短調『告別』 (1772)」で劇的な構想を、「交響曲第49番 ヘ短調『受難』 (1768)」で重い短調の響きを聴きたい。
豆知識
音楽史でいうシュトゥルム・ウント・ドランクは、作曲家たちが自分でそう名乗った運動ではない。後世の研究者が、文学運動の名を使って似た表現傾向を整理した言葉である。便利なラベルだが、作品ごとの違いも大切にしたい。
