チムレンガ音楽
1970年代Thomas Mapfumoがショナのンビラ音楽を電化した反植民地ロック。
どんな音か
チムレンガ音楽(ショナ語で「闘争」を意味するchimurenga)は、1970年代のジンバブエ(当時のローデシア)で、Thomas Mapfumoがショナ族の伝統儀礼楽器mbira(親指ピアノ、22-24枚の金属タインを持つ)のリフをエレクトリック・ギターに移植し、バンド編成で鳴らした反白人植民地政治音楽だ。ギターはmbiraの循環動機を模倣した反復パターンを弾き、ベースはmbira下部のバスラインを模し、ドラムはショナ儀礼太鼓hosho(振り箱)のグルーヴを踏襲する。テンポは中速4/4、旋律はショナ音階(5音+7音の混合)、歌詞はショナ語で植民地体制批判、独立闘争賛美、後にはムガベ体制批判を歌う。既存slug`chimurenga`とはThomas Mapfumo中心の歴史記述で重複するが、この項目ではmbira伝統との楽器的な連続性と、Mapfumo以外の担い手にも焦点を当てる。
生まれた背景
ジンバブエ独立戦争期(1964-1979)、Thomas Mapfumoは白人植民地体制ローデシア下で、ショナ族の伝統儀礼音楽mbira dzavadzimu(祖霊儀礼のンビラ)のリフをエレクトリック・バンド編成に移植する着想を得た。彼のバンド「The Hallelujah Chicken Run Band」は1974年に活動を始め、1977年のヒット『Hokoyo!』(「気をつけろ!」)は反植民地の暗喩に満ち、ローデシア政府に度重なる拘束を受けた。1980年の独立後、Mapfumoは新政府の音楽的スターとなったが、1988年『Corruption』でムガベ体制の腐敗を批判、以降体制批判の姿勢を貫き2000年代に米オレゴンへ亡命した。Chiwoniso Maraireは1970年代に父Dumisani Maraireがワシントンでmbira布教活動を行っていた家庭に生まれ、1990年代にジンバブエに戻り電化mbiraロックの女性版を担った。
聴きどころ
まずギター・パートに耳を澄ませてほしい。チムレンガ音楽のギターは、通常のロック・ギターの和音弾きではなく、mbiraの右手・左手のタインの動きを模倣した2声部の反復パターンを弾く。これは西アフリカのハイライフのギター奏法とも異なる独自の語法だ。次にhosho(振り箱)の8分刻みが太鼓の代わりにグルーヴを支え、ベースはmbiraの低音タイン(bass keys)の動きをそのままエレクトリック・ベースに移した循環バスを弾く。Chiwoniso Maraire『Ancient Voices』(1998)は電化mbiraと生mbiraの中間で作られた稀有な作品で、この構造がクリアに聴ける。Hope Masike『Hope』(2011)ではmbiraとジャズ・ピアノの共存が現代化された形で聴ける。
発展
1980年のジンバブエ独立後、Thomas Mapfumoは新政府の音楽的スターとして君臨したが、1988年『Corruption』でムガベ体制の腐敗を批判、以降体制批判の姿勢を貫き2000年代に米オレゴンへ亡命した。同世代のOliver Mtukudzi(1952-2019、後述するsunguraの担い手でもある)はより穏やかな政治性で全国的なスターとなり、女性mbira奏者のChiwoniso Maraire(1976-2013)は1990年代に「電化mbiraロック」の女性側の担い手として国際的に活動した。2010年代以降、Hope Masikeがmbiraと現代ジャズを繋ぐ路線でチムレンガの美学を継承している。
出来事
- 1974: Hallelujah Chicken Run Band活動開始
- 1977: Thomas Mapfumo『Hokoyo!』
- 1980: ジンバブエ独立
- 1988: Thomas Mapfumo『Corruption』
- 2013: Chiwoniso Maraire死去
派生・影響
sungura(Alick Macheso)と兄弟関係、南アのmbaqangaとの相互影響。ショナmbira伝統音楽の電化系譜。
音楽的特徴
楽器エレクトリック・ギター(mbira模倣)、ベース、ドラム、hosho(振り箱)、時にmbira dzavadzimu、リード・ボーカル+バッキング
リズム中速4/4、mbira動機を模倣したギターの循環反復、hoshoの8分刻み、ショナ音階の5音+7音混合
代表アーティスト
- Chiwoniso Maraire
- Hope Masike
代表曲
- Ancient Voices — Chiwoniso Maraire (1998)
Rebel Woman — Chiwoniso Maraire (2008)
その後の代表曲
Hope — Hope Masike (2011)
The Exorcism of a Spinster — Hope Masike (2016)
日本との関係
初めて聴くなら
最初はChiwoniso Maraire『Ancient Voices』(1998、Tuku Music)、mbiraとエレクトリック・バンドが対等に絡む彼女の代表作。歌詞のショナ語も、歌の抑揚と音の高低が対応する声調言語的な特徴が聴き取れる。次に彼女の『Rebel Woman』(2008)、より成熟した電化路線。Hope Masike『Hope』(2011)は現代版チムレンガのジャズ寄り解釈で、彼女の透明感のある声質がジャンルの新しい可能性を示す。歴史的な文脈からは、既存の`chimurenga`項目のThomas Mapfumo作品(『Hokoyo!』1977、『Corruption』1988)を並行して聴くのがおすすめだ。
豆知識
「chimurenga」はショナ語で「闘争」を意味し、歴史的にはNdebele-Shona戦争(1896-97)を「第一次chimurenga」、独立戦争(1964-79)を「第二次chimurenga」、2000年代のムガベ体制下の土地改革を「第三次chimurenga」と呼ぶ用法がある。Thomas Mapfumoは体制批判で2004年に米オレゴン州に亡命、以降2018年のムガベ退陣まで帰国できなかった。Chiwoniso Maraireは2013年、39歳の若さで肺炎により急死、ジンバブエ音楽界に大きな衝撃を与えた。彼女の父Dumisaniは1968年に米ワシントン州立大学でmbira講座を開設し、北米でのmbira研究の礎を築いた人物として音楽学史に名を残す。
