ラテン・カリブ

トローバ

Trova / Nueva Trova

サンティアゴ・デ・クーバ/ハバナ / キューバ / カリブ海 · 1890年〜

別名: Trova tradicional / Nueva Trova

19世紀末キューバ東部サンティアゴで生まれた弾き語り歌曲伝統と、革命後のヌエバ・トローバ運動を含む、社会派・抒情詩派の歌曲群。

どんな音か

アコースティックギターと声だけで構成される、非常にシンプルな音場。弾き語り的な作編成で、歌詞の意味が容易に立ち上がり、政治的メッセージや個人的な思想が前景に出る。メロディは音階的で朗々としており、ラテン音楽の陽性さよりも内省的・瞑想的な雰囲気が強い。BPMは遅から中庸。和音進行はシンプルで、時に複雑な詩型(アレハンドリーノなど)の句読を音楽的リズムで支える。

生まれた背景

19世紀末、キューバ東部のサンティアゴ・デ・クーバで、スペイン系とアフロ・キューバン系が混在する社会のなかで生まれた弾き語り伝統。20世紀前半の新聞や民間の讃歌集に記録され、1950年代まで農村部と町場の両方で日常的に歌われていた。1960年のキューバ革命後、革命政権が文化統制の一環として民族音楽を再発見・再解釈し、シルヴィオ・ロドリゲスやパブロ・ミラネスらが社会派の詩と結びつけたヌエバ・トローバ(新しいトローバ)運動が1960年代後半に隆盛。政治的メッセージと美学が密接に結ばれた。

聴きどころ

シルヴィオ・ロドリゲスの『Ojalá』では、4本弦のギターが揺らぐようなコード・ヴォイシングで、「もし鳥だったら」から始まる切実な願いの詩を受け止めている。歌詞の各行の終わりにギターが間をつくり、言葉の重さが浮き出る。パブロ・ミラネスの『Yolanda』では、叙述的なメロディが長い間奏を持たず、詩的な時間軸に寄り添っている。弾き方の細かな揺れ(ビブラート的な処理)も作品によって異なり、個性が強く表れる。

発展

1980~90年代にカルロス・バレラ、ヘラルド・アルフォンソらが第二世代を形成し、現代ではディエゴ・カノ、ハイデル・ガオなど若手が継承する。ボレロ、サルサ、フォークとの境界を行き来する。

出来事

  • 1900: シンドー・ガライがハバナで活躍
  • 1968: シルビオ・ロドリゲス「フェルナンド」
  • 1972: ヌエバ・トローバ運動公式結成
  • 2010: 第三世代の現代化

派生・影響

ボレロ、ラテン・フォーク、ヌエバ・カンシオン、サルサと交差。

音楽的特徴

楽器アコースティックギター、トレス、声

リズム緩やかな3/4と2/4、抒情詩、社会批評

代表アーティスト

  • Pablo Milanésキューバ · 1965年〜2022
  • Silvio Rodríguezキューバ · 1968年〜

代表曲

日本との関係

日本ではフォークソングの愛好者層を中心に1970年代から知られたが、大規模な流行にはならなかった。しかし学生運動・ベトナム戦争反対の文脈で、社会派の歌詞を持つシンガーソングライターたちに参考例として引用されることはあった。近年は映画やドキュメンタリーを通じ、キューバ文化への興味と共に再認識される。

初めて聴くなら

夜に静かに聴くなら、シルヴィオ・ロドリゲスの『Ojalá』。歌詞を知らなくても、ギターのため息のような流れとメロディの悲しさが伝わる。スペイン語が分からなくても、投げ出された声と弦の対話を感じることから始められる。その後、パブロ・ミラネスで、別のアプローチを聴き比べると良い。

豆知識

シルヴィオ・ロドリゲスは盲目の作曲家で、その経験が全く異なる聴く世界を音楽に映した。ヌエバ・トローバ運動の中心は音楽による社会運動だったため、革命政権がスポンサーになる一方で、一部のアーティストは政権批判に転じた場合に沈黙を強いられるなど、複雑な歴史がある。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1890年代1900年代トローバトローバソン・クバーノソン・クバーノ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
トローバを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

キューバ · 1890年前後 (±25年)

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