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伝統・民族

ピーブロック

Pibroch

スコットランド / ケルト圏 · 1600年〜

別名: Ceòl Mòr

スコットランド・ハイランドのバグパイプ音楽の最高峰で、複雑な変奏構造を持つ大曲形式。戦士や悼みの感情を表現する。

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ひとことで言うとスコットランド・ハイランドのバグパイプ音楽の最高峰で、複雑な変奏構造を持つ大曲形式。戦士や悼みの感情を表現する。

まずはこの曲からLament for the Children ▶ YouTube

どんな音か

ピーブロック(pibroch、ゲール語pìobaireachd、「パイプ演奏」の意)は、ハイランド・パイプの独奏によるスコットランド最古の芸術音楽形式で、氏族社会の「ceòl mòr(大音楽)」と呼ばれる。ダンスや行進のためのceòl beag(小音楽)と対置される、瞑想的で長大な変奏音楽だ。曲は序奏「ウルラー(ùrlar、「地」の意)」、中間の変奏群「シュヴァル(siubhal、「動き」の意)」、そして最も装飾が密になる最終変奏「クルンルア(crunluath、「頂点」の意)」の三部構造で、1曲が15-25分に及ぶ。ウルラーは緩やかで、1音1音の間に長い息継ぎを取る禅的な演奏で、これが徐々に細分化された装飾音を積み重ねて頂点に達する。演奏者はハイランド・パイプ一本で立奏し、他の楽器や声を一切伴わない。

聴きどころ

ピーブロックはハイランド・パイプ音楽全体の中でも異例に瞑想的で、ダンス音楽としては聴けない。まずウルラーの単純な旋律(通常16-32小節)を頭に入れてほしい。演奏者はこの旋律を、変奏ごとに装飾音を段階的に増やしていく。第1変奏は装飾が控えめ、第2変奏はcut(短い装飾音)が入り、第3変奏でtaorluath(4つの短い装飾音の連なり)、最終変奏のcrunluathで9つの装飾音が連続する、というふうに、まさに音の建築物を築いていく感覚がある。ドローン(通常3本、Aの基音)は演奏中一切変わらず鳴り続け、旋律との間に生じる干渉音(ビート現象)がピーブロック独特の「うなり」を作る。演奏の終盤、装飾音の密度が最大になったところで演奏者は突然ウルラーに戻り、静けさの中で曲を閉じる。

初めて聴くなら

入り口はPatrick Molard(フランス人パイパー、ピーブロック演奏の現代的巨匠の一人)の録音で『Lament for the Children』を聴くのが良い。これはPatrick Mór MacCrimmon(1595-1670頃)が疫病で7人の子供を亡くしたことを弔って作った曲とされ、ピーブロックの感情的深さの頂点にある。次にBarnaby Brownの実験的な現代解釈盤(2010年代のピーブロック復興運動の中心人物)、あるいは1970年代のPipe Major Robert Nicolや後のRoderick Cannonの録音も参考になる。深夜、暖炉あるいはロウソクの火を眺めながら、他の音を全部消して聴くのが本来の作法に一番近い。

代表曲

生まれた背景

ピーブロックは15世紀のハイランドで発達した。決定的な役割を果たしたのはスカイ島のマクリマン家(MacCrimmons of Skye)で、彼らはハイランドのクラン・マクロード(MacLeod)の世襲パイパー(Hereditary Piper)として12世代にわたりピーブロックの作曲と演奏を独占的に伝承した。

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スカイ島西部のBoreraigに彼らのパイプ学校があり、初学者は7年、上級者はさらに7年、計14年の修行を要したと伝えられる。曲の伝承は口伝で、パイパーは弟子に音節による記憶術「カンタラック(canntaireachd)」を使って旋律を伝えた。1746年のカロデンの戦い(スチュアート朝の最後の反乱)後、英国政府はハイランド文化の弾圧の一環でハイランド・パイプの演奏を禁じ、この時期にマクリマン家のパイプ学校も閉鎖された。ピーブロックの伝統は事実上ここで一度断絶した。

音楽的特徴の詳細

楽器グレート・ハイランド・バグパイプ

リズム自由リズムのウルラから変奏(Taorluath、Crunluath)へ展開

発展

1745年敗戦後に衰退するも19世紀のPiobaireachd Societyにより記譜・復興。20世紀には世界バグパイプ大会の主要部門となる。現代ではCeòl Mòrとして学術的研究も進む。

出来事

  • 16世紀末: MacCrimmon家成立
  • 1903: Piobaireachd Society設立
  • 1947: Northern Meeting採譜事業
  • 1969: Seumas MacNeillによる楽典体系化

派生・影響

現代パイプ・バンド音楽の源流。Ceòl Beag(舞踏曲)と対をなす。

日本との関係

日本でのピーブロックの認知は極めて限定的だが、ハイランド・パイプを演奏する日本人パイパーの一部(日本パイプバンド協会所属の熟練者)が研究している。全日本パイプバンド・コンテストのソロ・ピーブロック部門はごく少人数の参加者しかいないが、その中で栗原康平(2000年代活動)らが国際大会での上位入賞を果たしている。学術的にはハイランド文化研究者の若干の翻訳文献があるのみで、一般聴衆への届きは音楽より映画経由(『ブレイブハート』での葬送場面の使用など)が中心だ。

豆知識

ピーブロックの伝統的な記譜体系「カンタラック(canntaireachd)」は、旋律と装飾音を発音可能な音節に置き換えて口伝で伝える口頭記譜法で、たとえばA音のcut装飾は「hin」、G音のtaorluath装飾は「hodroe」というふうに、一つの装飾に一つの音節が対応する。マクリマン家は自分たちの秘伝を五線譜化することを拒み続けたので、20世紀初頭までカンタラックが唯一の伝承手段だった。

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1903年設立のPiobaireachd Society(ピーブロック協会)が体系的な五線譜化を進め、16巻に及ぶ全集を1925-90年代に刊行して伝統を近代的な形で保存した。マクリマン家最後の伝承者Patrick Òg MacCrimmonが1730年頃に生きていた頃の演奏が本来のピーブロックだが、それは今の私たちには絶対に届かない。私たちが聴いているのは18世紀後半以降に採録された二次資料としてのピーブロックだ。

影響・派生で結ばれたジャンル

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ジャンル関係図1600年代ピーブロックピーブロックスコティッシュ・トラッドスコティッシュ・トラッド凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
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