三曲
箏・三味線(地歌)・尺八(または胡弓)による室内合奏形式。
どんな音か
箏、三味線(地歌用の中太棹)、尺八または胡弓の三種が絡み合う室内楽だ。三つの楽器は同じ旋律を少しずつ異なるタイミングと音色で奏でる「ヘテロフォニー」が基本で、西洋の弦楽四重奏のようなパート分担ではない。箏のツメが弦を弾く乾いた音、三味線の撥がバチっと皮面を叩く瞬間の鋭い音、尺八の管口から漏れる息の混じった低音——三つが同時にあることで、静かな部屋の空気がじわりと変わる。テンポは細かく揺れ動き、三者が微妙にずれながら最終的に一致するポイントで音楽の重心が移動する。
生まれた背景
聴きどころ
「春の海 — 宮城道雄 (1929)」では箏と尺八が同じ旋律を追っているようでいて、微妙に食い違うところが肝だ。尺八が一音を長く引き延ばしている間に箏が次の音へ動く、そのズレの間に三曲らしい間(ま)が生まれる。また、箏の弦を弾いた直後に左手で弦を押す「後押し」によって音程が滑らかに上下する奏法にも注目したい。
発展
明治以降、当道座解体後も三曲協会が組織され、流派合同の演奏会が定着した。宮城道雄らによる新作も三曲編成を踏襲し、現代邦楽創作の基本フォーマットとなった。学校教育の邦楽指導でも採用される。
出来事
- 1820年頃: 三曲合奏の様式確立。
- 1872年: 三曲協会の前身組織発足。
- 1929年: 宮城道雄『春の海』が三曲スタイルを世界に紹介。
- 1955年: 邦楽諸流派が重要無形文化財指定。
- 2008年: 学習指導要領で邦楽必修化。
派生・影響
現代邦楽合奏・新日本音楽の母体形式となり、邦楽器による室内楽創作の原点となった。
音楽的特徴
楽器箏、三味線(中棹)、尺八、胡弓、声
リズム手事と歌の交替、三者の呼吸合わせ、段構成
代表アーティスト
- 宮城道雄
代表曲
- 春の海 — 宮城道雄 (1929)
日本との関係
初めて聴くなら
「春の海 — 宮城道雄 (1929)」は2楽器(箏と尺八)のバージョンで聴き始めるのが最もシンプルでわかりやすい。次に三味線が加わった三曲版を聴き比べると、三番目の声部がいかに音楽の密度を変えるかが直感的にわかる。
豆知識
「春の海」はフランスのバイオリニスト、ルネ・シュメーとの合同演奏(1936年)がヨーロッパで反響を呼び、箏音楽が海外に届いた最初期の例の一つとなった。宮城道雄は1956年、就寝中に急行列車から転落して亡くなった。晩年まで精力的に演奏・作曲を続けた。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 伝統・民族端唄
