伝統・民族

サイディ音楽

Saidi Music

エジプト / 北アフリカ · 1900年〜

上エジプト(サイード)農民社会の祝祭音楽で、ミズマール(オーボエ系笛)とタブラの強烈な野外音響が特徴。

どんな音か

ミズマールはダブルリードの管楽器で、オーボエより太く短く、音は野外を突き抜ける。その音がタブラ(足鼓)の連打と合わさると、音量と密度が一気に増す。サイディ音楽の基本リズムは「マクスーム・サイディ」と呼ばれる8拍子の変形で、太鼓の強打点が西洋音楽とは別の位置に来るため、慣れるまで拍の「アタマ」がどこか掴みにくい。屋外の結婚式や農繁期の祝祭のために発達した音楽なので、音の存在感は徹頭徹尾「大きい」方向に向かっている。スティックダンス(タフティーブ)の伴奏としても機能する。

生まれた背景

エジプト(アラビア語でサイード)はナイル川中流域の農耕地帯で、カイロとは文化的にも言語的にも距離がある。サイディ音楽はこの地域の農村共同体に根付いた祝祭音楽で、婚礼・収穫・ムーリド(聖者祭)の場で演奏された。下エジプト(デルタ地帯)やカイロのポップス産業からは「田舎臭い」と長らく見下される傾向があったが、1990年代以降、シャアバーン・アブドゥル・ラヒームのような歌手がサイディの語り口を取り入れた大衆音楽を作り、認知が変わった。

聴きどころ

「Mizmar Sa'idi — Metqal Qenawi (1975)」ではミズマールが先行し、太鼓がどのタイミングで入るかに注目する。太鼓が入った瞬間、音楽の重力が変わる。音量が上がり続けるのではなく、ミズマールがフレーズの切れ目で息を吸うたびに短い静寂が生まれる。その瞬間の打楽器だけの音がサイディ音楽の骨格だ。

発展

1970~80年代にメガヘド・ル・ガッシール、ナグーマ・ヤヒアらが録音文化を整備し、サイディ・リズムは現代エジプト・ベリーダンスの代表拍子として国際的に知られた。マハラガナート時代にもサンプリング元として機能している。

出来事

  • 2016: タハティーブがユネスコ無形文化遺産登録
  • 1970: メガヘド・ル・ガッシール録音
  • 1985: マウリド観光化
  • 2010: マハラガナートに引用

派生・影響

シャアビー、マハラガナート、エジプト・ベリーダンス音楽の基層。

音楽的特徴

楽器ミズマール、アルガル、タブラ・バルディ、声

リズムサイディ拍子(D-D-T-D-T)、ミズマールのドローン

代表アーティスト

  • Metqal Qenawiエジプト · 1960年〜

代表曲

日本との関係

サイディ音楽日本で直接知られる機会はほとんどない。エジプト音楽の中でもウンム・クルスームのような古典的な都市音楽は輸入盤や文化講座で紹介されるが、サイディの農村音楽まで届いていない。

初めて聴くなら

「Mizmar Sa'idi — Metqal Qenawi (1975)」ではミズマールの音色を確かめる。次に「El Layla Dee — Metqal Qenawi (1980)」で祝祭の熱量の上昇を感じてほしい。どちらも短い曲なので続けて聴くと音の輪郭がつかみやすい。

豆知識

タフティーブはスティックを使った舞踊で、元々は農具や護身用の棒術に由来するとされる。現在は無形文化遺産として保護されており、農村の祝祭だけでなく都市部の文化パフォーマンスとしても演じられている。ミズマールは演奏中に循環呼吸(口から息を出しながら同時に鼻から吸う)を使うことで、フレーズを途切れさせずに続けることができる。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1900年代1970年代サイディ音楽サイディ音楽シャアビー(エジプト)シャアビー(エジプト)凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
サイディ音楽を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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エジプト · 1900年前後 (±25年)

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