サイディ音楽
上エジプト(サイード)農民社会の祝祭音楽で、ミズマール(オーボエ系笛)とタブラの強烈な野外音響が特徴。
どんな音か
ミズマールはダブルリードの管楽器で、オーボエより太く短く、音は野外を突き抜ける。その音がタブラ(足鼓)の連打と合わさると、音量と密度が一気に増す。サイディ音楽の基本リズムは「マクスーム・サイディ」と呼ばれる8拍子の変形で、太鼓の強打点が西洋音楽とは別の位置に来るため、慣れるまで拍の「アタマ」がどこか掴みにくい。屋外の結婚式や農繁期の祝祭のために発達した音楽なので、音の存在感は徹頭徹尾「大きい」方向に向かっている。スティックダンス(タフティーブ)の伴奏としても機能する。
生まれた背景
聴きどころ
「Mizmar Sa'idi — Metqal Qenawi (1975)」ではミズマールが先行し、太鼓がどのタイミングで入るかに注目する。太鼓が入った瞬間、音楽の重力が変わる。音量が上がり続けるのではなく、ミズマールがフレーズの切れ目で息を吸うたびに短い静寂が生まれる。その瞬間の打楽器だけの音がサイディ音楽の骨格だ。
発展
1970~80年代にメガヘド・ル・ガッシール、ナグーマ・ヤヒアらが録音文化を整備し、サイディ・リズムは現代エジプト・ベリーダンスの代表拍子として国際的に知られた。マハラガナート時代にもサンプリング元として機能している。
出来事
- 2016: タハティーブがユネスコ無形文化遺産登録
- 1970: メガヘド・ル・ガッシール録音
- 1985: マウリド観光化
- 2010: マハラガナートに引用
派生・影響
シャアビー、マハラガナート、エジプト・ベリーダンス音楽の基層。
音楽的特徴
楽器ミズマール、アルガル、タブラ・バルディ、声
リズムサイディ拍子(D-D-T-D-T)、ミズマールのドローン
代表アーティスト
- Metqal Qenawi
代表曲
- Madad — Mohamed Mounir (2005)
Mizmar Sa'idi — Metqal Qenawi (1975)
El Layla Dee — Metqal Qenawi (1980)
Habibi Wenta Ba'eed — Shaaban Abdel Rahim (2001)
Kalemny Shokran — Shaaban Abdel Rahim (2003)
日本との関係
初めて聴くなら
「Mizmar Sa'idi — Metqal Qenawi (1975)」ではミズマールの音色を確かめる。次に「El Layla Dee — Metqal Qenawi (1980)」で祝祭の熱量の上昇を感じてほしい。どちらも短い曲なので続けて聴くと音の輪郭がつかみやすい。
豆知識
タフティーブはスティックを使った舞踊で、元々は農具や護身用の棒術に由来するとされる。現在は無形文化遺産として保護されており、農村の祝祭だけでなく都市部の文化パフォーマンスとしても演じられている。ミズマールは演奏中に循環呼吸(口から息を出しながら同時に鼻から吸う)を使うことで、フレーズを途切れさせずに続けることができる。
