ピンプアット
カンボジア・アンコール王朝以来の宮廷・寺院音楽で、ロケット型の多孔笛、銅製のメロディー・ゴング、打楽器群が複雑に絡み合うアンサンブル。
どんな音か
ピンプアットは高い音から低い音へ水が落ちるような音響構造を持つ。チューン笛(ピーパース/チュクスナイ)が3〜4本並び、同じ旋律を音高を違えながら奏でることで、ベルの音色のような厚みが生まれる。そこへ大小のゴング(ホン・シクド、ホン・チュエ)がメロディー・パターンを強調し、マレット打ちのカウンター・ベース太鼓(サムファイ)が規則的なビートを支える。テンポはジャンルによって大きく異なり、儀式的な場では瞑想的な遅さ、踊りの場では加速していく。音色全体は明るい鐘の音が支配的で、残響が長く尾を引く。
生まれた背景
聴きどころ
チューン笛の3音が織り成す調和を感じること。各笛が同じ旋律の高さ・低さ・中程度を分担し、合わさるとコーラス効果になる。次に、そのメロディーの下からゴングが同じフレーズを『ボーン』と力強く押し上げる瞬間を待つ。最後に、太鼓のビートが全体を支える周期を数える。
発展
1975〜79年のクメール・ルージュ期に音楽家の90%が殺害され、伝統が壊滅的打撃を受けた。1980年代以降、シーラパコン大学・カンボジア・リビング・アート(米国NGO)などが伝承再建に取り組み、若い世代への伝授を続けている。
出来事
- 12世紀: アンコール・ワット彫刻に類似アンサンブル描写。
- 1947年: 独立後のシハヌーク文化政策。
- 1975年: クメール・ルージュ期、音楽家の大量殺害。
- 1998年: カンボジア・リビング・アート活動開始。
- 2008年: 王宮舞踊がユネスコ無形文化遺産代表一覧表に登録(伴奏としてピンプアット)。
派生・影響
カンボジア王宮舞踊・現代カンボジア音楽創作の基盤、世界の文化遺産再建モデルケース、東南アジア青銅打楽器文化群の中核を成す。
音楽的特徴
楽器ロネアート・エーク、コン・トムニュン、スラライ、サムフォー、スコー・トム、チン
リズム緩慢な儀礼拍、コン・トムニュンの主旋律、王宮舞踊伴奏
代表曲
Sarika Keo (2000)
日本との関係
初めて聴くなら
『Sarika Keo』(小鳥の歌)。クメール民族のロマンティック・トリビュート曲で、ピンプアット・アンサンブルの透明感のある音色が際立つ。昼間に、自然の中で聴くと、曲のタイトルと楽器の鳴き方が呼応する。
