サインワイン
ミャンマーの円陣型太鼓・銅鑼アンサンブル。
どんな音か
サインワインは円形に配置された一組の太鼓アンサンブルだ。大きさの異なる21個の釣り太鼓が奏者を囲むように並び、その外側を銅鑼と管楽器が支える。太鼓の皮の中央に「パ」と呼ばれる黒い樹脂を塗って音程を調律し、叩く位置によって音色が変わる。音楽は反復と展開を交互に繰り返しながら、ナット(精霊)を喜ばせるために長時間続く。テンポは演目によって緩急があるが、祭典の場では段階的に速くなることが多い。
生まれた背景
ミャンマーの宮廷音楽における打楽器アンサンブルとして、コンバウン朝(18〜19世紀)の頃に現在の形に整備されたとされる。ナット信仰(アニミズム的精霊崇拝)の儀式音楽としての役割が歴史的に中心で、「ナッパウェ」と呼ばれる憑依儀式の音楽的基盤を担ってきた。タイのピパット楽団と構造的に類似した部分があるが、ミャンマー独自の音階体系(ペン・チャウン・チッ)を用いる。
聴きどころ
「Nat Pwe Saing」では最初に太鼓の音程差を聴き分けてほしい。同じアンサンブルの中に、皮の厚みと樹脂の量によって別々の音程が出ている。銅鑼が打たれるタイミングは拍の強調よりも「節目の合図」として機能し、音楽の区切りを示す。演奏が進むにつれてリズムが密になり、その密度の変化が音楽全体の緊張感を作る。
発展
20世紀には民間の祝祭音楽として広まり、Sein Bo Tint・Saing Saing らマスターが舞台化を進めた。軍政期(1962–2011)は文化政策で保護され、改革開放後の2011年以降に国際公演が増えた。
出来事
- 11世紀: バガン朝期の合奏起源。
- 1857年: マンダレー王朝での完成。
- 1962年: 軍政下での文化保存。
- 1990年代: 民俗芸能の国際紹介。
- 2011年: 改革開放で国際公演活発化。
派生・影響
ミャンマー古典歌曲マハーギーターの伴奏、現代ミャンマー・ポップへの旋律提供、東南アジア青銅打楽器文化群の重要構成要素。
音楽的特徴
楽器パッ・ワイン、チー・ワイン、フネー、パッ・マ、サウン・ガウク、声
リズムパッ・ワインの華麗な太鼓ソロ、屋外的迫力、儀礼舞踊伴奏
代表曲
Nat Pwe Saing (1990)
日本との関係
初めて聴くなら
ユネスコや民族音楽学のアーカイブ録音に収録された「Nat Pwe Saing」が現状では最も入手しやすい。まず太鼓の音程を追い、次に銅鑼の役割を確認するという順番で聴くとアンサンブルの構造が見えてくる。
豆知識
サインワインの奏者は師匠から弟子への口伝で学ぶのが基本で、楽譜による伝承ではない。各曲の名称はナットの名前や儀式の内容に由来するものが多い。ミャンマーの伝統演劇「ザット・ピン」の伴奏音楽としても使われ、そちらは物語の進行に合わせてテンポが細かく変化する。
