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ヒップホップ・R&B

パレスチナ・ラップ (BLTNM)

Palestinian Rap (BLTNM)

ラマッラー(西岸) / リッダ(Lyd) / パレスチナ / イスラエル(48年以内) / MENA · 2017年〜

別名: Palestinian Hip-Hop / West Bank Rap / BLTNM Collective / بلاطنم / ラマラ・ラップ

2017年ラマッラーで Shabjdeed・Al Nather・Julmud が創設した BLTNM を中心とする、パレスチナ・アラビア語の現代トラップ・ラップ。1998年 Lyd 結成の DAM が直系の祖。

どんな音か

パレスチナ・ラップ(BLTNM)の音を初めて聴くと、多くの人は『これはアメリカ合衆国ン・トラップなのか、アラビア音楽なのか』と迷うだろう。それは正しい迷いで、実際、Shabjdeed《Sindibad El Ward》(2019)を聴くと、Atlanta 系 808 sub-bass の重い低音の上に、Al Nather のプロダクションによる hijaz(中東音階)のシンセ・リードが乗り、その上をラマッラー方言のアラビア語ラップが流れる。これは1998年に Lyd(現イスラエル領内の Al-Lydd)で結成された DAM(Tamer・Suhell Nafar 兄弟と Mahmoud Jreri)が Tupac 影響下でアラビア語ラップを立ち上げた系譜の、18年遅れの西岸ラマッラー版の第二世代だ。歌詞は占領下の日常、検問所、若者文化、アイロニックなユーモアが混在する。

生まれた背景

決定的な起点は1998年、18歳の Tamer Nafar が弟 Suhell と Mahmoud Jreri と共に Lyd で DAM(Da Arabian MCs)を結成し、2001年シングル《Meen Erhabe?(誰がテロリストか?)》がアラブ世界と欧州で流通、パレスチナ・ラップの制度的な起点となった。2017年、プロデューサー Al Nather(1995-、ラマッラー)が Shabjdeed(Mohammed Mughrabi、1993-)、Julmud(1994-)と組んで BLTNM を設立、DAM から18年遅れの西岸第二世代が立ち上がった。2019年 Shabjdeed《Sindibad El Ward》が SoundCloud/Spotify を経由してアラブ世界と欧州のディアスポラに一気に届き、以降 Daboor(ガザ)ら第三世代へと拡張した。

聴きどころ

第一に、Al Nather のプロダクションの音色語彙に注意。Atlanta 系トラップの 808 sub-bass に、hijaz(中東音階の一種、第二音を半音下げる音階)・bayati のシンセ・リードが重ねられ、アラビア語圏特有の音色が加わる。第二に、アラビア語音節構造とラップのフロウ。Shabjdeed のフロウはラマッラー方言(西岸方言)特有の音節配分に合わせて、行末の音節を分断する書法を採る。第三に、歌詞のアイロニー。BLTNM は DAM の直接的な政治性から一歩引いて、日常のアイロニックなユーモアと詩的な暗喩を主題化する。

発展

2019年、Shabjdeed が Al Nather プロダクションで《Sindibad El Ward(薔薇のシンドバード)》をリリース、これが BLTNM の国際的なブレイクスルーとなり、以降 SoundCloud/Spotify を経由してアラブ世界と欧州のディアスポラに届いた。2021年 Julmud《Fee Sadri(胸の中に)》は Nayrouz Abu Hatoum との共作としてより実験的な音響に寄った。2022年以降 Daboor がガザ地区発の第三世代として頭角を現し、《Inn Ann》(2022)が反戦アンセムとして流通。2023年以降のガザ危機期、BLTNM は西岸内外での公演を続けつつ、国際的な連帯表明の音楽的な焦点の一つとなった。

出来事

  • 1998: DAM 結成(Lyd)
  • 2001: DAM《Meen Erhabe?》
  • 2017: BLTNM 設立(ラマッラー)
  • 2019: Shabjdeed《Sindibad El Ward》
  • 2021: Julmud《Fee Sadri》
  • 2022: Daboor《Inn Ann》
  • 2023-: ガザ危機期のパレスチナ・ラップ国際化

派生・影響

hip-hop(米国、derived_from)、trap(regional_variant)、arabic-pop(sibling)。DAM(1998-)は BLTNM(2017-)の直系の祖。48年内パレスチナ人共同体からのラップ表現が西岸の第二世代を可能にした。

音楽的特徴

楽器808 sub-bass、Roland TR-808 スネア/ハイハット・ロール、中東音階のシンセ・リード(hijaz・bayati)、Autotune、時にウード・カーヌーンのサンプル

リズム70-140 BPM、half-time trap パターン、triplet hi-hat、アラビア語音節構造に合わせた行末の音節分断、時に伝統アラブ音楽の非等分拍節の断片挿入

代表アーティスト

  • DAM (Da Arabian MCs)パレスチナ / イスラエル · 1998年〜
  • Al Nather (الناظر)パレスチナ · 2015年〜
  • Shabjdeed (شب جديد)パレスチナ · 2015年〜
  • Julmud (جلمود)パレスチナ · 2016年〜
  • Daboor (دبور)パレスチナ · 2018年〜

代表曲

  • Sindibad El WardShabjdeed (شب جديد) (2019)
  • Meen Erhabe? (Who's the Terrorist?)DAM (Da Arabian MCs) (2001)
  • Dabke on the MoonDAM (Da Arabian MCs) (2012)
  • Ma AndekshiShabjdeed (شب جديد) (2020)

その後の代表曲

日本との関係

パレスチナ・ラップの日本受容は極めて限定的で、20世紀を通じてほぼ知られていなかった。2010年代以降、東京 UPLINK や渋谷 R-Lounge などの小規模会場でパレスチナ音楽の紹介が徐々に進み、2019年前後 YouTube・Spotify 経由で BLTNM の楽曲が日本の一部リスナーに届き始めた。2023年ガザ危機以降、政治的な関心と並行して BLTNM の楽曲が SNS で共有される事例が増え、日本の若い世代にも認知が徐々に広がっている。ただし日本での認知度は依然として極めて低く、日本ヒップホップ・ファンの1万人に数人程度と推定される。

初めて聴くなら

まず Shabjdeed《Sindibad El Ward》(2019、Al Nather プロダクション)から。BLTNM のブレイクスルー曲として、シーンの音色語彙が最も凝縮された作品。次に DAM《Meen Erhabe?》(2001)で系譜の祖を確認。深く入るなら Julmud《Fee Sadri》(2021、詩的で実験的な路線)、Daboor《Inn Ann》(2022、ガザ発の第三世代)、Shabjdeed《Ma Andekshi》(2020)。BLTNM の SoundCloud・YouTube・Spotify チャンネルで最新の楽曲が随時アップされている。

豆知識

BLTNM(パレスチナ・ラップ (BLTNM))の名前はアラビア語の造語で、『balat(石畳・タイル)』と『nam(私たち)』の合成、『我々の石畳/我々の地』を意味する。ラマッラーの街角の石畳がラベル名の起点。もう一つ:DAM の Tamer Nafar は2003年 NYU でヒップホップ・スタディーズを学び、Chuck D(Public Enemy)と対談したことがある。彼は俳優としても2013年映画『Junction 48』(Udi Aloni 監督)に主演した。もう一つ:Daboor は Netflix ドラマ『Mo』(2022、Mo Amer 主演のパレスチナ系米国人の物語)のサウンドトラックへの《Inn Ann》採用で国際的な認知を得た。