古典

オルガヌム

Organum

パリ / フランス / 西ヨーロッパ · 900〜1250年

9〜13世紀にプレインチャントの旋律へ別声部を重ねて生まれた、西洋最古の多声音楽の総称。

どんな音か

オルガヌムは、単旋律の聖歌に別の声部を重ねて生まれた西洋初期の多声音楽。下声が長く聖歌を伸ばし、上声がその上で花のように細かく動くことがある。ペロタンの「Viderunt omnes」では、声が石造りの大聖堂に立ち上がり、時間がゆっくり垂直に伸びる。

生まれた背景

9〜13世紀にかけて、プレインチャントへ平行声部や自由な声部を加える実践から発展した。特に12〜13世紀のパリ、ノートルダム楽派のレオニヌスとペロタンは、大規模で精密な多声音楽を作った。西洋音楽が単旋律から多声へ進む重要な段階である。

聴きどころ

下の声が非常に長く音を保ち、上の声がその周りを細かく動く関係を聴く。現代の和声のような進行を期待するより、声が重なることで空間が広がる感覚を味わうとよい。大聖堂の残響を含む録音では、音の建築性がよく分かる。

発展

サン・マルシャル楽派(リモージュ)でメリスマ的オルガヌムが発展し、12世紀後半パリのノートルダム楽派でレオニヌスの「マグヌス・リベル・オルガニ」、ペロタンの3声・4声オルガヌムへと頂点に達した。モーダル・リズム(リズム・モード)の導入で書記化されたリズムが可能となり、後のアルス・アンティクアにつながる。13世紀以降は新形式モテットへと素材が引き継がれた。

出来事

  • 880年頃: 「ムジカ・エンキリアディス」、並行オルガヌムを記述
  • 1170年頃: レオニヌス「マグヌス・リベル・オルガニ」編纂
  • 1200年頃: ペロタン「Viderunt omnes」4声オルガヌム
  • 1230年頃: フランコ・フォン・ケルン「アルス・カントゥス・メンスラビリス」、計量記譜法を体系化

派生・影響

ディスカントゥス、コンドゥクトゥスを経てモテットへ発展し、ルネサンスの厳格対位法、さらにはバロックの和声法の遠い源流となった。20世紀後半のスペクトル楽派や坂本龍一など、持続音と倍音への美学的関心を共有する現代作曲家にも影響を残す。

音楽的特徴

楽器男声合唱

リズム持続音上の装飾旋律、モーダル・リズム

代表アーティスト

  • レオニヌスフランス · 1150年〜1201
  • ペロタンフランス · 1180年〜1238

代表曲

日本との関係

日本では中世音楽、グレゴリオ聖歌、古楽の文脈で紹介される。一般的なクラシック演奏会では多くないが、合唱や音楽史を学ぶ人には西洋多声音楽の始まりとして重要である。声明雅楽の持続音と比較して聴くのも面白い。

初めて聴くなら

入口は「Viderunt omnes — ペロタン (1198)」。長く伸びる下声と上声の華やかさが分かりやすい。さらに荘厳な響きなら「Sederunt principes — ペロタン (1199)」。レオニヌスの古い形は「Alleluia Pascha nostrum」で触れたい。

豆知識

オルガヌムはオルガンの曲という意味ではない。声に別の声を加える多声化の技法を指す。単旋律の祈りが、複数の声によって空間的な音楽へ変わる瞬間がここにある。 ノートルダム大聖堂のような残響空間を想像すると、長く伸ばす下声が単なる伴奏ではなく、建築の柱のように働くことが分かる。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図600年代900年代1160年代オルガヌムオルガヌムプレインチャントプレインチャントノートルダム楽派ノートルダム楽派凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
オルガヌムを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

オルガヌム の系譜全体図(多段)を見る

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