ラテン・カリブ
マラカトゥ
Maracatu
レシフェ/オリンダ / ブラジル / 南米 · 1700年〜
別名: Maracatu Nação / Maracatu Rural
ブラジル北東部ペルナンブーコ州のアフロ・ブラジル系コミュニティが保持する、王宮行列を擬した儀礼的カーニバル音楽。
どんな音か
ブラジル北東部特有の、複数のドラムによるポリリズムの上に、サンバのようでいながら全く別のグルーヴが乗る。BPMは中程度だが、各ドラム(シュリカ、リプニコ、タンボル・ド・ミナ)が異なるオンビート/オフビートを奏でるため、聴き手は混乱と確実感を同時に経験する。ボーカルは、リード(メストレ)と群衆が対話する形で、歌詞は歴史的・政治的メッセージを含むことが多い。カーニバルの行列音楽だが、舞台での演奏では儀式的な重さを保つ。
生まれた背景
17世紀から18世紀のペルナンブーコ州では、ポルトガル統治下でアフリカ奴隷と先住民アメリカ合衆国ンが共存。奴隷制の中でも、年1回のカーニバル期間は『黒い王』『黒い女王』を選んで、一時的な反転の儀式が許可された。この王宮行列パロディが、maracatuの原型。1950年代まで農村部で細々と続き、1960年代から都市部での再評価が始まり、フォルクローレ・ブラジレイロ(ブラジル民俗主義)の浪潮に乗った。Chico Scienceはmaracatuを現代的に再編成し、『マラカトゥ Atômico(原子的マラカトゥ)』として電子音響と融合させた。
聴きどころ
ドラムのポリリズムのどれかに意識を固定すると、全体が一転して聴こえる。メストレの歌唱は、古い奴隷制への怒りと、現代の不公正への訴えを同時に発する力強さ。Chico Scienceの『A Praieira』では、ギター・シンセの現代性と、ドラム・コーラスの伝統が衝突・共存する。.
発展
1990年代のシコ・サイエンス&ナサオン・ズンビが「マンゲ・ビート」運動でマラカトゥを電化し、現代ロック・ジャズと融合した。2014年にナサオン・パイ・アジューン、エストレラ・ブリリャンテがユネスコ候補リスト入り。
出来事
- 1850: アフロ・ブラジル王国擬式
- 1888: 奴隷解放
- 1992: シコ・サイエンス&ナサオン・ズンビ結成
- 2014: ユネスコ候補リスト
派生・影響
サンバ・ヘッジ、ブラジル・ファンク、マンゲ・ビート、世界的パーカッション・アンサンブルに影響。
音楽的特徴
楽器アルファイア、カイシャ、タロル、アゴゴ、ガンザ、合唱
リズム強い4/4ステディ、女性合唱、行進儀礼
代表アーティスト
- Chico Scienceブラジル · 1991年〜1997
代表曲
A Praieira — Chico Science (1994)
Maracatu Atomico — Chico Science (1996)
日本との関係
ブラジル移民コミュニティが存在する日本でも、maracatuの認知度は限定的。サンバ・ブームの陰に隠れ、『黒いカーニバル』という想像的なイメージしか持たない日本人が大多数。
初めて聴くなら
Chico Scienceの『マラカトゥ Atômico』。1990年代の録音で、モダンなプロダクション。maracatuの本質的なリズムを保ちながら、ロック・エレクトロニック要素が加わっているため、初心者にも入りやすい。その後、より伝統的な録音(ペルナンブーコ地方のカーニバル映像)を聴くと、スタイルの時間軸が見える。
豆知識
『マラカトゥ』という言葉の語源は不確実だが、説によってはアフリカ語『マラカ』(祝い・踊り)+ポルトガル語『トゥー』(打つ)の複合。現在、ペルナンブーコ州のmaracatuグループは、カーニバルの時期に数百人の楽団を組織し、都市部でのプレゼンスは政治的・文化的に重要な位置づけにある。
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