マンデ・グリオ伝統
西アフリカ・マンデ系社会で千年以上受け継がれる世襲口承詩人ジェリ(グリオ)による系譜・歴史叙述音楽。
どんな音か
マンデ・グリオ(ジェリ)の音楽はコラ(21弦のブリッジハープ)かバラフォン(木琴の一種)を演奏しながら歌い、語る。コラの音は澄んでいて短い残響を持ち、速い分散和音が滝のように流れる。歌い手は祖先の名前、戦士の武勲、王族の系譜を呼び上げながら、現在の聴衆を賛美する。旋律は繰り返しを基本とし、その繰り返しに乗って歌詞が変化する。感情的な高揚は音量より声の張り、音色の変化で表す。演奏時間は短い曲でも20〜30分に及ぶことがあり、一つの系譜の語りが音楽と一体になって長く続く。
生まれた背景
13世紀のマリ帝国成立(1235年ごろ)の時代から、ジェリは支配者の歴史と系譜を記憶し口頭で伝える専門職として機能してきた。文字記録のない社会において、ジェリの記憶は歴史文書の役割を担った。世襲制で、ジェリの家に生まれた者だけがこの役割を担えるとされた。Toumani Diabaté(トゥマニ・ジャバテ)はジェリの71代目にあたる家系の出身で、コラの名手として世界的に知られる。Salif Keita は逆に、王族の家系に生まれてジェリではないにもかかわらず音楽家になったという経歴を持ち、西アフリカの身分制度との緊張を体現している。
聴きどころ
Toumani Diabaté「Kaira」(1987)はコラ独奏。最初の30秒で分散和音がどれほど速く複雑に動くかに耳を向けてほしい。左手と右手が別々の音型を奏でていて、両方を同時に追うのは難しい。まず低音側(ベースライン)だけを耳で追い、慣れたら高音側の旋律を追う、という聴き方を試してほしい。Salif Keita「Soro」(1987)は電子楽器を導入したモダンな編成で、伝統とポップスの接点を聴かせる。
発展
20世紀後半にトゥマニ・ジャバテはコラを独奏楽器として国際舞台に押し上げ、母親も歌手のサリフ・ケイタは王族出身でありながらアルビノ差別を受けつつ歌の道を切り拓き伝統と階級観を揺さぶった。マンディング・スウィングと呼ばれるバンド編成のポップ化が進み、ワールドミュージック市場の中核ジャンルとなった。
出来事
- 13世紀: マリ帝国成立とジェリ階級の制度化
- 1960: マリ・セネガル独立後、国営アンサンブルが結成
- 1970: 国立アンサンブル・アンステュメンタル・デュ・マリ結成
- 1987: トゥマニ・ジャバテ『Kaira』
- 2006: トゥマニ・ジャバテとアリ・ファルカ・トゥーレ『In the Heart of the Moon』グラミー受賞
派生・影響
ワスル、ブルース(大西洋奴隷貿易を経た系譜論で度々参照される)、マンディング系ポップ、ジャズとのコラボレーションに影響を与えた。
音楽的特徴
楽器コラ、バラフォン、ンゴニ、声
リズムヘテロフォニー、複合拍子、語り歌
代表アーティスト
- Salif Keita
- Ali Farka Touré
- Toumani Diabaté
代表曲
- Kaira — Toumani Diabaté (1987)
- Soro — Salif Keita (1987)
In the Heart of the Moon — Ali Farka Touré (2005)
日本との関係
Toumani Diabaté は2000年代に来日し、日本の音楽家との共演も行っている。西アフリカの音楽愛好者の間ではコラの音色は知られているが、グリオ伝統の文化的背景まで理解されることは少ない。アフリカ音楽全般が「ワールドミュージック」として大まかに括られる中で、マンデ・グリオ固有の位置づけは伝わりにくい。
