カビル音楽
アルジェリア北部カビル地方のアマジグ系カビル人による独自言語タカビリト・カビル語の歌で、政治・郷愁・抒情を高度な詩で歌う。
どんな音か
カビル語(タカビリト)で歌われる声楽が中心で、ギター(スパニッシュ型のアコースティックギター)が伴奏する。フランス占領期以降に西洋の弦楽が入り込んだため、音階はベルベル系の音楽らしいまっすぐな旋律線に西洋コード進行が組み合わさった独特の混合形式になっている。声は前に出て、鼻腔に抜ける明るい響きを持つ。歌詞の詩的水準が非常に高く、郷愁・亡命・政治抵抗・男女の愛をテーマにしている。イディルの『A Vava Inouva』(1976年)はその象徴で、ギターのアルペジオと澄んだ声だけで成立するシンプルな美しさがある。
生まれた背景
聴きどころ
イディルの声の「素直さ」に耳を傾ける。装飾や過剰なビブラートがなく、メロディーがまっすぐ前に進む。ギターのコードが西洋的なのに、旋律がどこか西洋では聴かない音の動きをすることがある——そこがベルベルの音感が残っている部分だ。マトゥブの曲では政治的緊張感が声の張り方に出ており、イディルとは異なる空気がある。
発展
1990年代の内戦期にもカビル音楽は反テロ・人権の声として機能し、アイドル・アマジグ・カベール、イディル(国際スター)らが世代を更新した。海外移民2世のラ・カウサ・カバイル、ティタウィンも近年の重要な担い手。
出来事
- 1936: シェイク・エル・ハスナウィパリ録音
- 1980: ベルベル春闘
- 1998: マトゥブ・ルウネス暗殺
- 2002: アマジグ語公用語化
派生・影響
シャンソン、シャアビ、欧州フォーク、現代ワールドポップと交差。
音楽的特徴
楽器ウード、アコースティックギター、声
リズム緩やかな2/4と6/8、叙情詩、メリスマ
代表アーティスト
- Idir
- Matoub Lounès
代表曲
- A Vava Inouva — Idir (1976)
- Lettre Ouverte — Matoub Lounès (1998)
Tabratt I Lhakem — Matoub Lounès (1989)
Tahya Algeria — Matoub Lounès (1996)
Tahya Bladi — Idir (2007)
日本との関係
初めて聴くなら
イディルの『A Vava Inouva』(1976年)を静かに聴く。父と娘の対話を詩にした歌詞(カビル語)で、意味が分からなくても声とギターの感触だけで十分伝わる。
豆知識
『A Vava Inouva』は1976年にフランスのラジオで放送されると、郷愁を刺激する曲として北アフリカ移民のコミュニティで爆発的に広まり、イディルを一躍有名にした。「A Vava」はカビル語で「お父さん」を意味する呼びかけ語で、歌詞全体が家族の会話形式になっている。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 伝統・民族アルジェリア・シャアビ
- 伝統・民族ライ
