イファ音楽
西アフリカ・ヨルバ族のイファ占術と宗教儀礼で行われる、太鼓と詠唱の音楽伝統。
どんな音か
イファ音楽はヨルバ族のイファ占術(イファ・ディヴィネーション)の儀礼と不可分に結びついている。バタ(bàtá)と呼ばれる両面太鼓が中心で、高音と低音の両面を使い分けながらヨルバ語の声調を「語る」(太鼓で言語を模倣する技術)。太鼓は神聖な言語として扱われ、太鼓の叩き方で神話の詩句(オリキ、oriki)を「話す」。Wande Abimbola(ワンデ・アビンボラ)は20世紀のイファ学の最高権威で、その詠唱は祭祀と学術の両面で記録されている。イファ占術のセッションではオパ・イファ(牛皮のひも16本)を投げて出た模様(オドゥ)に対応する詩節(エセ・イファ)が詠まれる——このエセは音楽的な詠唱として歌われる。
生まれた背景
聴きどころ
Wande Abimbolaの「Ifa Divination Chant」では、まずバタ太鼓のリズムが声調言語(ヨルバ語の3声調)を模倣している点に意識を向けてほしい。高い太鼓面と低い太鼓面の対比が「言葉の上げ下げ」と対応しているように聞こえる箇所がある。詠唱は反復しながら即興的に展開し、「同じフレーズが何度も来るが毎回少し違う」ことに気づくと、口承文学の記憶術としての側面が見えてくる。
発展
16-19世紀の大西洋奴隷貿易でブラジル(カンドンブレ)、キューバ(サンテリア)、ハイチ(ヴォドゥ)等にディアスポラ拡散し、各地で独自宗教音楽を生んだ。本土では植民地期を経ても継承され、独立後はナイジェリア国民文化の重要要素として再評価された。
出来事
- 12世紀頃: ヨルバ・イレ・イフェ王国成立、宗教文化整備
- 1820: イファ・オラトリ・ベイビロン、米州ディアスポラの宗教発生
- 2005: ユネスコ、イファ占術を無形文化遺産登録
派生・影響
サンテリア音楽、カンドンブレ音楽、ヴォドゥ儀礼音楽、ジュジュ・アフロビート(フェラ・クティはヨルバ宗教文化を引用)、現代ナイジェリアン・ポップに広範な影響。
音楽的特徴
楽器バター(三連太鼓)、ドゥンドゥン、アグベ、シェケレ、声
リズム声調太鼓、複合ポリリズム、コール&レスポンス、ヨルバ語
代表アーティスト
- Wande Abimbola
代表曲
Ifa Divination Chant — Wande Abimbola
日本との関係
初めて聴くなら
豆知識
イファ占術の「オドゥ(Odù)」は256種類あり、それぞれに対応する詩節(エセ・イファ)は数百から数千節に及ぶとされる。イファ司祭(ババラウォ、babalawo)はこの膨大な詩節を暗記して儀礼の場でその場のオドゥに対応する詩節を即座に引き出す——書物のない時代の「検索エンジン」のような知識体系だ。
