宗教・霊歌

イファ音楽

Ifá Music (Yoruba Divination)

イレ・イフェ / ナイジェリア・ベナン / 西アフリカ · 1100年〜

西アフリカ・ヨルバ族のイファ占術と宗教儀礼で行われる、太鼓と詠唱の音楽伝統。

どんな音か

イファ音楽はヨルバ族のイファ占術(イファ・ディヴィネーション)の儀礼と不可分に結びついている。バタ(bàtá)と呼ばれる両面太鼓が中心で、高音と低音の両面を使い分けながらヨルバ語の声調を「語る」(太鼓で言語を模倣する技術)。太鼓は神聖な言語として扱われ、太鼓の叩き方で神話の詩句(オリキ、oriki)を「話す」。Wande Abimbola(ワンデ・アビンボラ)は20世紀のイファ学の最高権威で、その詠唱は祭祀と学術の両面で記録されている。イファ占術のセッションではオパ・イファ(牛皮のひも16本)を投げて出た模様(オドゥ)に対応する詩節(エセ・イファ)が詠まれる——このエセは音楽的な詠唱として歌われる。

生まれた背景

ヨルバ族は西アフリカ(現在のナイジェリア西部・ベナン共和国)を故郷とし、イファはその宗教・倫理・哲学・医療が統合された知識体系だ。16〜19世紀の奴隷貿易でヨルバ人がキューバブラジル・トリニダードへ連れていかれた際、イファも移植された。キューバでは「レグラ・デ・オチャ(サンテリア)」、ブラジルでは「カンドンブレ」として変容しながら今も継承されている——これらの音楽はイファ音楽のアフリカ側の兄弟にあたる。2005年にユネスコが「イファの口承文化と表現」を無形文化遺産に登録した。

聴きどころ

Wande Abimbolaの「Ifa Divination Chant」では、まずバタ太鼓のリズムが声調言語(ヨルバ語の3声調)を模倣している点に意識を向けてほしい。高い太鼓面と低い太鼓面の対比が「言葉の上げ下げ」と対応しているように聞こえる箇所がある。詠唱は反復しながら即興的に展開し、「同じフレーズが何度も来るが毎回少し違う」ことに気づくと、口承文学の記憶術としての側面が見えてくる。

発展

16-19世紀の大西洋奴隷貿易でブラジル(カンドンブレ)、キューバ(サンテリア)、ハイチ(ヴォドゥ)等にディアスポラ拡散し、各地で独自宗教音楽を生んだ。本土では植民地期を経ても継承され、独立後はナイジェリア国民文化の重要要素として再評価された。

出来事

  • 12世紀頃: ヨルバ・イレ・イフェ王国成立、宗教文化整備
  • 1820: イファ・オラトリ・ベイビロン、米州ディアスポラの宗教発生
  • 2005: ユネスコ、イファ占術を無形文化遺産登録

派生・影響

サンテリア音楽、カンドンブレ音楽、ヴォドゥ儀礼音楽、ジュジュ・アフロビート(フェラ・クティはヨルバ宗教文化を引用)、現代ナイジェリアン・ポップに広範な影響。

音楽的特徴

楽器バター(三連太鼓)、ドゥンドゥン、アグベ、シェケレ、声

リズム声調太鼓、複合ポリリズム、コール&レスポンス、ヨルバ語

代表アーティスト

  • Wande Abimbolaナイジェリア · 1965年〜

代表曲

日本との関係

イファ音楽日本でほぼ知られていない。ヨルバ音楽・サンテリア音楽の研究は日本の民族音楽学の一分野として存在するが、一般リスナーへの浸透はない。キューバ音楽経由でヨルバ起源の宗教音楽に触れるルートはあるが、アフリカ本土のイファ音楽にたどり着くことはまれ。

初めて聴くなら

Wande Abimbolaの「Ifa Divination Chant」を聴くなら、バタ太鼓の音色の違い(高音面と低音面)を意識するところから始めるといい。キューバサンテリア音楽(ルンバやベンベの録音)と聴き比べると、アフリカ起源の音楽要素がカリブ海でどう変容したかが見えて面白い。

豆知識

イファ占術の「オドゥ(Odù)」は256種類あり、それぞれに対応する詩節(エセ・イファ)は数百から数千節に及ぶとされる。イファ司祭(ババラウォ、babalawo)はこの膨大な詩節を暗記して儀礼の場でその場のオドゥに対応する詩節を即座に引き出す——書物のない時代の「検索エンジン」のような知識体系だ。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1100年代1820年代イファ音楽イファ音楽カンドンブレ音楽カンドンブレ音楽サンテリア音楽サンテリア音楽凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
イファ音楽を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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