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古典

現代ガザル

Modern Ghazal

ラホール/ラーワルピンディー/ジャランダル / パキスタン / インド / 南アジア · 1970〜2000年

別名: Popular Ghazal / Postclassical Ghazal / غزل جدید

1970-80年代、Mehdi Hassan・Ghulam Ali・Jagjit Singh が古典ガザルを大衆的な音盤フォーマットに翻訳した潮流。

どんな音か

現代ガザル現代ガザル / 現代ガザル)は、1970-80年代を中心に、Mehdi Hassan(パキスタン)、Ghulam Ali(パキスタン)、Jagjit Singh(インド)の三人が中核となって成立した、古典ガザル(Begum Akhtar 時代のトゥムリー隣接のガザル)を大衆的な音盤/カセット・フォーマットに翻訳した潮流を指す。編成はハルモニウム、タブラ、サーランギー、時にサントゥールとフルート、独唱。曲は3-5分に整理され、LP/カセット・フォーマットに乗る長さになった(古典ガザルは1曲30-40分あることも珍しくなかった)。ヴォーカルは古典ガザル特有の細やかな微分音的な装飾を保ちつつ、より歌手の個性を前面に出し、詩の一節ごとに聴衆に語りかけるような親密な距離感を作った。歌詞はウルドゥー詩の古典(Mir Taqi Mir、Ghalib、Faiz Ahmed Faiz)と、20世紀の詩人(Ahmad Faraz、Nasir Kazmi、Kaifi Azmi)を並列に扱う。

生まれた背景

決定打は Mehdi Hassan(1927-2012、ラージャスターン生・分割で1947年パキスタン移住)が1970年代に確立した「Mehdi Hassan スタイル」で、彼は自らを「Shahenshah-e-ガザル」(ガザルの皇帝)と呼ばれることを甘受した。1976年『Ranjish Hi Sahi』(せめて憎しみでもいい)は Ahmed Faraz の詩を主題にし、以後半世紀にわたり南アジアのガザル歌唱の教科書として引用される。ほぼ同時期にラホールの Ghulam Ali(1940-、ラホール系Patiala Gharana)が『Chupke Chupke』(そっと そっと)(1980)で類似の商業的成功を収めた。インド側ではジャランダル出身の Jagjit Singh(1941-2011)が妻 Chitra Singh とのデュエット・アルバム『The Unforgettables』(1976)でヒットを飛ばし、彼のクリーンで明瞭なウルドゥー発音と、シタール/サントゥールを加えた編曲が、ガザルを都市中産階級のホームリスニング音楽として定着させた。1980年代のカセット時代とともに、彼らの録音は南アジア全域の家庭に届いた。

聴きどころ

Mehdi Hassan『Ranjish Hi Sahi』の冒頭のアーラープ(自由リズムの導入)を聴いてほしい。彼は詩の第一行を朗誦のように歌い、1分近く自由リズムでその一行を反復・装飾する。この長いアーラープの後で、タブラが Dadra 6拍子で入り、曲が本格的に始まる。この構造が現代ガザルの標準型となった。Ghulam Ali は Patiala Gharana 系の細かな装飾を得意とし、『Chupke Chupke』では詩の第二行の第4-5音節に微分音的な滑り(meend)を入れる。Jagjit Singh は逆に装飾を抑えたクリーンな発音で、詩の意味を明瞭に届けることを優先した。Farida Khanum『Aaj Jaane Ki Zid Na Karo』(1973)は、女性ガザル歌手による現代ガザルの完成形で、彼女の低音の中でウルドゥー詩の情感が最も詩情豊かに響く。

発展

1980年代、カセット時代の到来とともに Jagjit Singh は Doordarshan(インド国営 TV)と Bollywood 映画音楽(1990年『Arth』、『Saath Saath』)を経由してインド全土でガザル・シーンを主流化した。彼の1990年の1人息子 Vivek の交通事故死は Bollywood 界にも影響を与えた(映画『Arth』の主題歌はその後長く追悼歌として引用された)。パキスタン側では Mehdi Hassan が糖尿病と1988年の肺疾患で徐々に活動を縮小しつつも、2012年6月13日にカラチで死去するまで巨匠として君臨した。同時期に Farida Khanum(パンジャブ、Patiala Gharana)が『Aaj Jaane Ki Zid Na Karo』(今夜は帰ろうなんて言わないで)で最も詩情に富んだ女性ガザル歌手として並走した。2000年代以降、Jagjit Singh の死去(2011)と Mehdi Hassan の死去(2012)でこの潮流は事実上の終期を迎え、以降のガザル歌手は彼らの様式の継承者として位置づけられている。

出来事

  • 1976: Mehdi Hassan『Ranjish Hi Sahi』
  • 1976: Jagjit & Chitra Singh『The Unforgettables』
  • 1980: Ghulam Ali『Chupke Chupke』
  • 1988: Mehdi Hassan 肺疾患で活動縮小
  • 2011: Jagjit Singh 死去(10月10日)
  • 2012: Mehdi Hassan 死去(6月13日)

派生・影響

古典ガザル(ghazal)の直接の近代化(modernized_from ghazal)。カッワーリーとは詩の主題を共有するが、演奏形式は独立している。

音楽的特徴

楽器ハルモニウム、タブラ、サーランギー、サントゥール、フルート、独唱

リズムガザル拍子(自由リズムのアーラープ)、Dadra 6拍子、Kaharwa 8拍子、時に Teentaal 16拍子

代表アーティスト

  • Farida Khanumパキスタン · 1955年〜
  • Ali Sethiパキスタン · 2010年〜

代表曲・古典

  • Ranjish Hi Sahiメヘディ・ハッサン (1976)
  • Hoshwalon Ko Khabar Kyaジャグジット・シン (1999)
  • Aaj Jaane Ki Zid Na KaroFarida Khanum (1973)
  • Chupke Chupkeグラーム・アリ (1980)
  • Tum Itna Jo Muskura Rahe Hoジャグジット・シン (1990)

代表曲・現在

日本との関係

現代ガザル日本の直接の交流はかなり限定的で、これは Mehdi Hassan も Ghulam Ali も日本公演を行っていないためだ。Jagjit Singh は1990年代に東京の在日インド人コミュニティ向けに小規模なコンサートを行った記録があるが、一般公演ではなかった。日本の南アジア音楽好きの間では、東京・広尾の南アジア音楽 CD 店で Mehdi Hassan と Jagjit Singh の CD が長年入手できた。ウルドゥー詩に関心のある日本の中東文学研究者(大阪大学、東京外国語大学)の間で、現代ガザルは1970年代のウルドゥー詩の生きた録音として研究対象となっている。

初めて聴くなら

最初は Mehdi Hassan『Ranjish Hi Sahi』(1976)、現代ガザルの原型。続いて Ghulam Ali『Chupke Chupke』(1980)、Jagjit Singh『Tum Itna Jo Muskura Rahe Ho』(1990)、そして Farida Khanum『Aaj Jaane Ki Zid Na Karo』(1973)。深夜、部屋を暗くして、ウルドゥー詩の対訳(例:井筒俊彦訳のイスラム詩選)を横に置いて聴くと、詩情と旋律の対応が最もよく体に届く。

豆知識

Jagjit Singh は1990年に一人息子 Vivek を交通事故で失い、この時期に妻 Chitra Singh は事実上音楽活動から引退した。以後 Jagjit は独りで歌い続けたが、彼の1990年代以降の楽曲には常にこの喪失の影がある。Mehdi Hassan は晩年に糖尿病と肺疾患で歌唱能力を失い、2012年6月13日カラチで死去、パキスタン政府から Hilal-e-Imtiaz を国葬レベルで授与された。Ghulam Ali は現在も生存し、2020年代にコンサート活動を続けている。彼のインド公演は印パ関係の緊張で何度か中止された歴史があり、2015年ムンバイ公演は Shiv Sena の反対で中止となった。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1200年代1850年代1970年代現代ガザル現代ガザルヒンドゥスターニー古典ヒンドゥスターニー古典ガザルガザル凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
現代ガザルを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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