クリティ
カルナータカ古典音楽の中核となる三部構成歌曲形式。
どんな音か
生まれた背景
クリティの形式を完成させたのは18世紀後半から19世紀前半にかけての「カルナータカ音楽の三聖」と呼ばれる三人の作曲家、ティヤーガラージャ(1767〜1847年)、ムッタスワーミ・ディークシタル(1775〜1835年)、シャーマ・シャーストリー(1762〜1827年)である。ティヤーガラージャはテルグ語と少量のサンスクリット語で700曲以上を作り、ヴィシュヌ(ラーマ)への熱烈な信仰を旋律に込めた。ディークシタルはサンスクリット詩と密教的要素を組み合わせ、より複雑な音楽構造を構築した。この三人の作品が今日のコンサートレパートリーの中核を占め、南インドの若い音楽家はまず彼らのクリティを何百曲も暗記することから修行が始まる。
聴きどころ
最初に注目するのはガマカ(装飾音)。主音からわずかに上下にぶれながら戻ってくる微分音的な揺れが、西洋音楽のビブラートとは異なる独特の質感をつくる。次にターラ(拍節)を追う。演奏者はターラを手拍子や指の折り方(クリヤ)で数えながら歌い、音楽はその格子の中で呼吸している。『Endaro Mahanubhavulu』(M.S.スッブラクシュミ版、1970年)ではパッラヴィが戻ってくるたびに感情的な充実感が増す構造がわかりやすい。
発展
20世紀にはアリヤクディ・ラーマーヌジャ・アイヤンガール・センマンガディ・スリーニヴァーサ・アイヤール・M・S・スッブラクシュミー・パルガト・マニ・アイヤルらがコンサート・スタイルを確立した。チェンナイ・マイラポール・ミュージック・アカデミーが現代の中心拠点。
出来事
- 16世紀: プランダラ・ダーサによる基礎整備。
- 18世紀後半: 三聖人による大成。
- 1928年: マドラス・ミュージック・アカデミー設立。
- 1966年: M・S・スッブラクシュミー国連公演。
- 1998年: バーラト・ラトナ受章(M・S・スッブラクシュミー)。
派生・影響
ヴァルナム(教則曲)・ティラーナ(器楽的速曲)・パダム(舞踊歌曲)とともにカルナータカ・コンサートを構成し、バーラタナーティヤム舞踊の音楽的基盤も提供する。
音楽的特徴
楽器声、ヴィーナ、ヴァイオリン、ムリダンガム、ガタム、カンジーラ
リズムアディ(8拍)・ルーパカム(6拍)・ミシュラ・チャープ(7拍)、パッラヴィ-アヌパッラヴィ-チャラナムの三部構成
代表アーティスト
- シャーマ・シャーストリー
- ティヤーガラージャ
- ムッタイ・ディークシタル
- M.バーラムラリクリシュナ
代表曲
Endaro Mahanubhavulu — M. S. Subbulakshmi (1970)
日本との関係
初めて聴くなら
M.S.スッブラクシュミの『Endaro Mahanubhavulu』(1970年)が入門として最適。ティヤーガラージャ作のこの曲は「偉大な聖者たちに敬礼を捧げる」という詩で、明るくリズミカルなシュリーラーガを使っており、初めて聴く人でもリズムの心地よさが感じられる。静かな夜よりも、明るい午前中に聴くほうが曲の性格に合っている。
豆知識
ティヤーガラージャはその生涯でラーマ神への献身から、ウーンタチェルラム(現アーンドラ・プラデーシュ州)の地元の侯爵から宮廷楽師の職を提供されたが、「音楽は神への奉仕であって職業ではない」として断ったと伝えられる。彼の命日(プシュヤ月の5日)には現在もティルヴァイヤールで大規模な音楽祭「アーラーダナ」が開かれ、世界中の演奏家が集まる。
