バラード(器楽)
物語的・劇的内容を持つ独奏器楽の自由形式。ショパンが4曲のピアノ・バラードでジャンルを確立した。
どんな音か
ピアノ・バラードは曲の内部で劇的な変化を持つ自由形式の独奏曲だ。ショパンの第1番(ト短調 Op.23)を例にとると、冒頭は穏やかに始まり、中間部で嵐のような高速音列が炸裂し、コーダでは絶叫するようなフォルティッシモが続く。一曲を通じて「物語が進む」感覚があり、特定のソナタ形式やロンド形式には縛られない。声楽的な旋律線が明確で、オーケストラの音楽的ドラマをピアノ一台で表現しようとする意志が感じ取れる。リストのバラードは和声の転換がより大胆で、ショパンの叙情性よりも劇性が前面に出る。
生まれた背景
聴きどころ
ショパンのバラード第1番(Op.23)では、冒頭の序奏からどのタイミングで主題が現れるかを追う。主題が2度目に登場するとき、最初と何が変わっているかを比較する——音量、装飾、和声が変化していることに気づくはずだ。コーダ(曲の末尾)に向かって音楽がどう加速し、どのように破綻に向かうかを聴くと、「物語の終わり方」としての強烈な印象が残る。
発展
ショパン「バラード第1番ト短調」(1835)以降4曲、ブラームス「4つのバラード」 作品10、リスト「2つのバラード」、フォーレ「バラード」 作品19(後にピアノ協奏曲化)が連続的に発展した。20世紀ではフォーレ風叙情とロシア的ピアニズムの作品(メトネル)も書かれた。
出来事
- 1835: ショパン「バラード第1番」 作品23
- 1842: ショパン「バラード第4番」 作品52
- 1856: ブラームス「4つのバラード」 作品10
- 1881: フォーレ「バラード」 作品19
派生・影響
ピアノ協奏曲、交響詩、ロマン派の標題的器楽作品全般に物語的書法のモデルを提供した。
音楽的特徴
楽器ピアノ独奏
リズム自由形式、物語的構成、劇的クライマックス
代表アーティスト
- フレデリック・ショパン
- フランツ・リスト
- ヨハネス・ブラームス
代表曲
- バラード第1番 ト短調 作品23 — フレデリック・ショパン (1835)
- バラード第4番 ヘ短調 作品52 — フレデリック・ショパン (1842)
- 4つのバラード 作品10 — ヨハネス・ブラームス (1856)
日本との関係
ショパンのバラードは日本のピアノ教育でも重要なレパートリーに位置づけられており、コンクール課題曲や発表会の演目として頻繁に演奏される。辻井伸行や上原彩子など日本人ピアニストの国際コンクールでの活躍もあり、ショパン作品全般への関心は高い。アニメ「ピアノの森」(原作漫画・アニメ化2007〜2019年)でもショパン作品が重要な役割を果たし、バラードへの関心を若い層に広げた。
初めて聴くなら
ショパン「バラード第1番 ト短調 Op.23」(1835年)は最も演奏頻度が高く、多くの名盤が存在する。深夜、部屋を暗くして、15分集中して聴いてみることを勧める。バラード第4番(ヘ短調 Op.52, 1842年)はより後期の作品で、和声の複雑さが増しており、聴くたびに発見がある。ブラームスの「4つのバラード Op.10」(1856年)は第1曲がスコットランドの古い物語詩「エドワード」に触発されており、よりドイツ的な重みがある。
豆知識
ショパンはバラードという形式を名称と内容の両方の意味で「発明」したとされる——器楽曲に「バラード」という標題を付けた最初の作曲家の一人だからだ。また、ショパンの4曲のバラードは全て短調で書かれており、作品中唯一長調に転じる部分が最終的には悲劇的な結末に向かう構造を持つ。なお、日本語の「バラード(ballad)」は「叙情的なスローテンポの歌」を指すポップス文脈の意味で広く使われているが、本来の器楽バラードとはまったく別の用法だ。
