古典

ワヤン音楽

Wayang Kulit Music

インドネシア / 東南アジア · 900年〜

ジャワ・バリの影絵芝居の伴奏音楽。ガムランの中核機能。

どんな音か

ジャワのガムランアンサンブルが一夜通し演奏し続ける。ガムランは青銅製の鍵盤打楽器(ガンバン、サロン、ボナン)、大型のゴング(クノン、クンプル、グン)、太鼓(クンダン)、弦楽器(ルバブ)、フルート(スリン)から成る。各楽器は固定されたリズムサイクル(コロトミー)の中で異なる密度のパターンを演奏し、ゴングが大きな拍節の節目を打つことで構造の骨格ができる。ダランと呼ばれる人形遣い兼語り手がクダラン(木槌)で箱を叩いてテンポを指示し、場面の感情に合わせてガムランのレパートリーを指定する。音楽は演じられる人形劇の場面——戦闘・恋愛・喜劇・瞑想——によって劇的に変わる。

生まれた背景

ジャワのワヤン(影絵芝居)の起源は9〜10世紀にさかのぼり、インドのマハーバーラタとラーマーヤナを題材としながらジャワ独自の神霊観・宇宙論と融合した形で発展した。ガムランはワヤンの伴奏として最も重要な機能を担い、17世紀のマタラム王国時代に現在の編成と旋法体系が整理されたとされる。Ki Manteb Soedharsono(1948年生)はジャワで最も尊敬されるダランのひとりで、一晩9時間以上の上演をこなしながら数百の人形を使い分ける。彼の上演では観客が場面に応じて笑い・沈黙・涙を見せる。

聴きどころ

ゴングが鳴るタイミングを追うことで、音楽の大きな周期(コロトミー)が把握できる。小さい拍節のクノン、大きい拍節のグン、最大の節目のグン・アグン(大ゴング)の順で音が大きくなり、それが何周もサイクルする。戦闘場面では打楽器のテンポが上がり、瞑想場面では緩くなる——という場面転換を感じ取るだけで、ガムランが語りを支える仕組みが体感できる。

発展

20世紀にはダラン(語り手)が芸術家として地位を確立し、Ki Nartosabdho(1925–1985)・Ki Manteb Soedharsono ら巨匠が出現した。現代はテレビ・YouTubeで子供向けの短時間版も普及している。

出来事

  • 9世紀: ヴァヤン関連の最古文献。
  • 1973年: 国営TVRI番組で全国普及。
  • 1985年: Ki Nartosabdho死去で巨匠時代の終焉。
  • 2003年: ユネスコ「人類の口承及び無形遺産の傑作」宣言。
  • 2008年: ユネスコ無形文化遺産代表一覧表に登録。

派生・影響

現代インドネシア演劇・コミック・アニメ素材、ヴァヤン・ワヒュ(キリスト教題材ヴァヤン)など創作展開、世界各地のシャドウ・パペット文化との比較対象。

音楽的特徴

楽器ガムラン全編成、ダラン(操師)の声、シンデン

リズム場面ごとの定型パトゥト(旋律型)、長時間の連続演奏、ダランと楽団の即時的応答

代表アーティスト

  • Ki Manteb Soedharsonoインドネシア · 1968年〜2021

代表曲

日本との関係

日本では1960年代以降の民族音楽研究の一環としてガムランが紹介され、現在は全国の大学・市民グループにガムランサークルが存在する。ワヤン上演そのものは専門の研究者やバリ・ジャワ文化の愛好家が鑑賞するが、ガムランの音楽として親しむ層は相当数いる。バリガムランジャワガムランは別の様式だが、日本ではまとめて「ガムラン」として知られることが多い。

初めて聴くなら

Ki Manteb Soedharsono の「Wayang Mahabharata」(2000年)から場面を数十分聴いてみるのが最初の接触として最良。全上演は非常に長いため、戦闘場面と静かな場面を比較するつもりで抜粋を選ぶとよい。できれば映像とあわせて観ると、音楽と人形の動きの連動がはっきりわかる。

豆知識

ジャワでは伝統的にワヤン上演は日没から夜明けまでの9時間以上続き、深夜を境に物語の転換点が来る構成になっていた。現代では4〜5時間に短縮された上演が増えているが、農村部の祭礼では今も一夜通しの上演が行われる。ダランは演奏・語り・演技・演出のすべてを一人で担う存在で、伝統的な修練は12年以上かかるとされる。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図900年代1300年代ワヤン音楽ワヤン音楽ジャワガムランジャワガムラン凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ワヤン音楽を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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