伝統・民族

オルティン・ドー

Urtin Duu (Long Song)

モンゴル / 中央アジア · 1200年〜

別名: Mongolian Long Song / урын дуу

モンゴルの長唱。一音節を極めて長く伸ばす儀礼的歌曲。

どんな音か

一つの音節を極めて長く伸ばして歌う。「オルティン・ドー」はモンゴル語で「長い歌」を意味し、日本語の「長唄」とは全く別物で、一音節が10〜20秒以上続くこともある。歌い手は息継ぎのタイミングを極限まで遅らせ、声の波長が揺れながら持続する。旋律の輪郭はゆっくりと動き、装飾音(コロラトゥーラ的な細かい揺れ)が単音の中に织り込まれる。伴奏には馬頭琴(モリンホール)が使われることが多く、弓で擦る弦の音が持続する声と共鳴する。草原の広さ、空の広さを体感させる音楽として、ゲルの中や屋外の儀礼でも歌われてきた。

生まれた背景

モンゴル帝国以前からの起源が想定されるが、文字記録が少ないため正確な成立は不明。儀礼(ナダム、婚礼、那達慕)や饗宴の場で歌われ、特定の歌は特定の場にしか歌えないという慣習があった。ノロブバンザドは20世紀のモンゴルで最も著名なオルティン・ドーの歌い手で、国際的な文化使節としても活動し、1992年にユネスコの「人間国宝」に相当する賞を受けた。2005年にはユネスコが「モンゴルのオルティン・ドー」を無形文化遺産に登録した。

聴きどころ

ノロブバンザドの「Uyahan Zambuutivin Naran」(1980年)では、最初の一音が出た瞬間から声がどこまで伸び続けるかを計測するつもりで聴くとよい。息継ぎはほぼ聴こえず、声の揺れがむしろ音の「生命」として聴こえる。馬頭琴が声の下で持続するとき、2つの持続音が重なる瞬間の和声が自然に生まれる場所に注目するとよい。

発展

20世紀前半まで地域の名歌手による継承だったが、社会主義期に国営放送・国立劇場が録音と保存を担った。1990年代以降は内モンゴル・モンゴル国双方で再評価が進み、ノロブバンザド・ジャムヤン・ドルジダグワら名歌手が国際的に活躍した。

出来事

  • 13世紀: 帝国期の宮廷歌唱。
  • 1962年: 国立モンゴル劇場での長唱録音。
  • 1988年: ノロブバンザド国際公演。
  • 2005年: ユネスコ「人類の口承及び無形遺産の傑作」宣言(モンゴル・中国共同)。
  • 2008年: ユネスコ無形文化遺産代表一覧表に統合登録。

派生・影響

現代モンゴル創作歌曲・モンゴル映画音楽の素材となり、内モンゴル・ハルハ族・ブリヤート族など各地の長唱伝統が比較される。

音楽的特徴

楽器声、馬頭琴(モリン・フール)

リズム極めて緩やかな自由律、装飾的母音引き伸ばし、ノグロー(装飾)技法

代表アーティスト

  • ノロブバンザドモンゴル · 1955年〜2002
  • Khusugtunモンゴル · 2009年〜

代表曲

日本との関係

日本ではモンゴル音楽への関心の一部としてホーミー(倍音唱法)が知られているが、オルティン・ドーはそれより知名度が低い。モンゴル音楽のコンサートで紹介されることがある程度。モンゴル料理店のBGMとして流れることもあるが、積極的に聴かれているとは言いがたい。

初めて聴くなら

ノロブバンザドの「Uyahan Zambuutivin Naran」(1980年)から始めるのが最善。声が伸び続ける体験を正面から受け止めるために、最初の2〜3分は雑音のない環境で聴いてほしい。

豆知識

オルティン・ドーの歌い手は伝統的に喉への負担を最小限にする発声法を使うとされ、正しく歌えば声は衰えにくいという。ノロブバンザドは80代まで現役で歌い続け、2002年に亡くなったが晩年の録音でも声の持続力は保たれていた。この発声法の科学的分析はモンゴルと欧米の音声学者によって進められているが、完全に解明されてはいない。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1200年代オルティン・ドーオルティン・ドー馬頭琴馬頭琴凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
オルティン・ドーを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

オルティン・ドー の系譜全体図(多段)を見る

ジャンル一覧へ戻る