伝統・民族
馬頭琴
Morin Khuur
モンゴル / 中央アジア · 1200年〜
別名: Horsehead Fiddle / морин хуур
モンゴル民族楽器の二弦擦弦楽器。馬の頭の彫刻を特徴とする。
どんな音か
馬頭琴は、2本の弦を弓で奏する擦弦楽器で、その音色は哀愁を帯びた、遠く馬の嘶きを思わせる響きを持つ。テンポは、遅い瞑想的なものから、速く躍動的なものまで幅広い。音程は滑らかに変化し、ビブラート的な装飾が多用される。単音楽器だが、弓の返し(ボウイング)によって複雑なリズムが生成される。モンゴル伝統音楽では、長調的で開放的な音色を出すことが理想とされ、悲しみ・喜び・自然の広大さが同時に表現される。現代のAnDa UnionやThe Huは、馬頭琴にロック・エレクトロニック要素を加えている。
生まれた背景
馬頭琴の正確な起源は不明だが、13世紀のモンゴル帝国時代には既に存在していたと考えられる。騎馬民族の文化を象徴する楽器として、モンゴル各地域で発展。ソビエト連邦統治下では、モンゴル伝統音楽の『国民的象徴』として国家的に保護された。1990年代のモンゴル独立後、民俗音楽の再評価と同時に、現代的なポップ・ロック化も進行。AnDa Union(2006年結成)はモンゴル民族音楽とワールドミュージック融合の先駆け。The Hu(2019年)はヘビー・ロック的な馬頭琴演奏で、西洋ロック市場に初めて成功的に進出。
聴きどころ
チ・ボラグの『万馬奔騰』(1979年)では、複数の馬頭琴が同時に演奏され、ユニゾン・ハーモニーの美しさが感じられる。AnDa Union版では、馬頭琴の単音性を保ちながら、エレクトロニック・ビートやパーカッションが加わり、伝統と現代の対話が表現される。The Huの『Wolf Totem』では、ヘビー・ギターのような激しさで馬頭琴が奏でられ、モンゴル遊牧民の野性的生命力が呼び起こされる。
発展
20世紀後半、ジャムヤン・チンバット・チ・ボラグ(中国内モンゴル)らが奏者として国際的に活躍した。改革開放後の内モンゴル・モンゴル国の交流で奏法の標準化が進み、現代では協奏曲・室内楽の主要楽器となった。
出来事
- 13世紀以前: 馬頭琴の起源。
- 1956年: モンゴル国営馬頭琴工房設立。
- 1988年: チ・ボラグ国際的活躍。
- 2003年: ユネスコ「人類の口承及び無形遺産の傑作」宣言。
- 2008年: ユネスコ無形文化遺産代表一覧表に登録。
派生・影響
モンゴル国・内モンゴル自治区双方の国民的アイデンティティ楽器となり、ホーミー・長唱の伴奏のみならず独奏ジャンルも形成した。
音楽的特徴
楽器馬頭琴(二弦)、馬尾の弓
リズム歌うような擦弦、馬の歩行(ジョロー・ヒエル)を模倣するリズム、長唱伴奏
代表アーティスト
- チ・ボラグ中国 · 1972年〜
- AnDa Union中国 · 2001年〜
- Khusugtunモンゴル · 2009年〜
- The Huモンゴル · 2016年〜
日本との関係
1990年代から2000年代にかけて、ワールドミュージック・ブームとともに、AnDa Union等の演奏が映画・テレビの背景音楽として使われ始めた。2019年のThe Huのグローバル・ヒットにより、日本のロック・ファンにも馬頭琴の存在が広がった。一方、日本にもモンゴル系民族が定住しており、彼らのコミュニティでは馬頭琴が楽器として学ばれている。
初めて聴くなら
チ・ボラグの『万馬奔騰』。複数の馬頭琴による伝統的なアンサンブルで、遊牧民族の壮大さが感じられる。その後、AnDa Unionで現代的なアレンジ、最後にThe Huで激しい融合を経験する。夜の静寂の中で、または朝焼けの時間に聴くことを勧める。
豆知識
モンゴルでは、馬頭琴を『馬への敬意の楽器』と見なす伝統があり、演奏者は常に馬の気持ちになって弾くとされる。The Huは、グローバル・ロック市場での成功により、西洋のヘビーメタル・ファンに『モンゴル文化』への関心を喚起したが、一部のモンゴル伝統主義者からは『神聖な楽器の商品化』として批判を受けている。
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