ウクライナ・バンドゥーラ音楽
コブザリのバンドゥーラ撥弦叙事音楽。
どんな音か
バンドゥーラは60〜70本の弦を持つ大型の撥弦楽器で、左手でバス弦を弾き、右手で高音の短い弦を爪弾く。木の箱から出る音は明るく乾いており、ハープとリュートの中間のような音色。コブザリと呼ばれる伝統的な演奏者は盲目の行商人が多く、叙事詩「ドゥーマ」を歌いながら村から村へ渡り歩いた。ドゥーマはコサックの英雄物語や歴史的事件を語る長い詩で、メロディーは語りの抑揚に沿って即興的に変形する。Ukrainian Bandurist Chorusのような合唱団形式では、複数のバンドゥーラが和声を形成し、より荘厳なアンサンブルになる。
生まれた背景
バンドゥーラの前身とされる「コブザ」は15世紀ごろからウクライナに記録があり、コサック社会の英雄物語を担う楽器として発展した。コブザリは往々にして盲目の男性で、地域の記憶と歴史を歌と楽器で保存する役割を担った。1930年代のソビエト集団化政策と文化弾圧のなかで、伝統的なコブザリたちは「ブルジョア民族主義者」として多数が逮捕・処刑された。現在に伝わる演奏はこの断絶を経た再構築であり、Julian Kytastyのような奏者が亡命先のアメリカ合衆国で伝統を継承した。2022年以降のウクライナへの関心の高まりとともに、このジャンルに注目が集まっている。
聴きどころ
Ukrainian Bandurist Chorusの「Duma pro Marusiu Bohuslavku」(1965年)では、語り的な朗唱と音楽的な旋律の間を行き来するボーカルのスタイルに注目するとよい。バンドゥーラのアルペジオ(和音の分散奏)が声の旋律を支えながら自立した動きを見せる箇所で、楽器の音域の広さが体感できる。
発展
Hnat Khotkevychが20世紀初頭にバンドゥーラの近代化を進めた。北米移民圏でJulian Kytastyらが伝統を保持。2000年代以降ウクライナ国内で復興が進む。
出来事
- 1902: Khotkevychバンドゥーラ近代化
- 1930s: コブザリ粛清
- 1969: Bandurist Capella活動再開
派生・影響
ウクライナ国民楽派、コサック合唱の基盤。
音楽的特徴
楽器バンドゥーラ(60+弦)、Kobza、声
リズム自由拍朗唱、Dumy叙事詩律
代表アーティスト
- Ukrainian Bandurist Chorus
- Julian Kytasty
代表曲
Duma pro Marusiu Bohuslavku — Ukrainian Bandurist Chorus (1965)
日本との関係
初めて聴くなら
Ukrainian Bandurist Chorusの「Duma pro Marusiu Bohuslavku」(1965年)が最も記録として重要な録音のひとつ。ドゥーマという叙事詩の様式を体験するには、歌詞の日本語訳を用意してから聴くと内容と音楽が結びつきやすい。
豆知識
1930年代のソビエト当局がコブザリたちを一堂に集めて会議を開き、その後全員を処刑したという「盲目の吟遊詩人の大会」の伝説が残っている。史料的な確認は難しいが、同時期にコブザリが急激に姿を消したことは記録されており、文化的ジェノサイドの象徴として語り継がれている。
