古典

トルヴェール

Trouvère

フランス / 西ヨーロッパ · 1150〜1300年

12〜13世紀の北仏オイル語圏で、トルバドゥール伝統を引き継いだ宮廷詩人音楽家。

どんな音か

フランス北部でオイル語(中世フランス語の祖先)を使って詩を作り歌った詩人音楽家。音楽的には南のトルバドゥールと似た単旋律歌曲だが、オイル語の音韻が硬めで子音が立ち、旋律もやや直線的という印象がある。伴奏楽器はヴィエル(弓で弾くフィドル)やリュートで、単旋律の上を歌い手が語りかけるように進む。アダン・ド・ラ・アルの「ロバンとマリオンの劇」(1283年ごろ)は歌を持つ演劇作品で、複数のキャラクターが歌い交わす、西洋音楽史上の初期の劇音楽のひとつとされる。

生まれた背景

12世紀中頃に南仏のトルバドゥールの影響がパリ周辺の宮廷に届き、オイル語圏の貴族たちが自分たちの言語で同じことを始めたのがトルヴェールの始まり。クリスタン・ド・トロワなどと同時代のロマン文学の発展とも連動し、騎士道と宮廷恋愛を主題にした詩が多い。アダン・ド・ラ・アルはアラス出身で、当時の宮廷芸能の在り方を示す最も詳しい記録を残した人物のひとりとされる。13世紀末には詩と音楽が徐々に分業化し、14世紀のギヨーム・ド・マショーの時代にはアルス・ノヴァという新しい多声音楽の時代へと移行していく。

聴きどころ

アダン・ド・ラ・アルの「Robins m'aime」は短い繰り返し形式で、羊飼いの少女の語りが素朴な旋律で歌われる。単旋律の中で音節がどう長短に割り振られているかを追うと、オイル語のリズムと音楽の関係が聴こえてくる。伴奏ヴィエルが旋律の合間に短い装飾を入れる箇所も聴き逃さないようにするとよい。

発展

シャンパーニュ伯ティボー4世(1201〜1253)、ナバラ王として南仏文化との接続を保った。13世紀後半にはアダン・ド・ラ・アル「ロビンとマリオンの劇」(1283年頃)など演劇的作品も生まれ、複声化の試みも現れる。1300年頃までに様式は飽和し、アルス・ノヴァの精緻な多声音楽に主導権を譲った。

出来事

  • 1180年頃: コノン・ド・ベテューヌら最初期のトルヴェール
  • 1230年頃: ティボー・ド・シャンパーニュ全盛
  • 1283年頃: アダン・ド・ラ・アル「ロビンとマリオンの劇」
  • 1300年頃: トルヴェール伝統の終焉

派生・影響

アダン・ド・ラ・アルの多声シャンソンはアルス・ノヴァのフォルム・フィクスへ直接つながり、後のシャンソン伝統の基礎となった。中世写本研究を通じて20世紀の古楽復興運動でも盛んに上演されている。

音楽的特徴

楽器声、ヴィエル、リュート

リズム単旋律、定型詩形式、多声化の萌芽

代表アーティスト

  • アダン・ド・ラ・アルフランス · 1260年〜1288
  • ギヨーム・ド・マショーフランス · 1320年〜1377

代表曲

日本との関係

日本では西洋中世音楽として研究者・古楽愛好家の間に知られるが、一般への浸透はトルバドゥール同様に限られる。ロールプレイングゲームや中世ファンタジー設定の作品から興味を持った人が古楽の入門として調べることがある。

初めて聴くなら

アダン・ド・ラ・アルの「Robins m'aime」と「Le Jeu de Robin et Marion」からの抜粋を聴くとよい。短い曲が集まった劇音楽なので、聴き疲れせずにトルヴェールの雰囲気をつかめる。

豆知識

ギヨーム・ド・マショーはトルヴェールの末期と新しい多声音楽の時代の橋渡しに位置するが、彼は詩人としても一流で、自作の詩集を自ら編集して複数の写本に残した。中世ヨーロッパの音楽家としては珍しく、自分の作品が後世に伝わることを意識して行動した人物とされている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1080年代1150年代1310年代トルヴェールトルヴェールトルバドゥールトルバドゥールアルス・ノヴァアルス・ノヴァ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
トルヴェールを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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