伝統・民族

ポワダー

Powada

マハーラーシュトラ州プネー / インド / 南アジア · 1660年〜

マハーラーシュトラ州の英雄叙事詩を歌う民間芸能。

どんな音か

歌い手(シャーヒール)が一人で太鼓(ドール)の伴奏に合わせて歌う。旋律は明快で反復が多く、声は「叫び」に近い強い発声で押し出す。歌詞は韻律の強いマラーティー語の詩で、英雄の行動や戦場の様子が具体的な固有名詞とともに描写される。テンポは物語の緊張に合わせて変化し、英雄の出陣場面では打楽器が急速になる。観衆はサビ部分で掛け声を合わせることも多く、吟遊詩人と聴衆の掛け合いが演目の一部になっている。

生まれた背景

ポワダーは17世紀マラーター王国のシヴァージー・マハーラージュ(1630〜1680年)の時代に整えられた英雄叙事詩の形式だ。シヴァージーがムガル帝国に対してゲリラ戦を展開した際、彼の戦功を詩に収めて農村で歌い広める「吟遊詩人」がプロパガンダと士気高揚の機能を担った。最も有名なシャーヒール(吟遊詩人)のひとり、アグラーダース(Agradas)はシヴァージーの戦争詩を多数作ったとされる。19世紀の植民地期にはマハーラーシュトラの民族意識の表現として復活し、独立運動の文脈でも歌われた。現在は特にシヴァージー・ジャヤンティ(誕生日祝い)の行事で必ず歌われる。

聴きどころ

「Shivaji Maharaj ポワダー」の演奏録音では、最初のドールの打ち込みが始まった瞬間から声の「語りと歌の中間」の質感を確認してほしい。詩の韻律が規則的なため、マラーティー語がわからなくても強拍がどこに来るかは追える——そのリズムの安定の中で声が「物語をのせている」感覚がつかめれば、ポワダーの構造は把握できる。

発展

20世紀のシャヒール・アンナバーウ・サーテー・シャヒール・アムル・シャイク・シャヒール・ガヴァンキャールらがマルクス主義・社会主義的内容を取り入れ、革命的フォークとして発展させた。インド独立後はマハーラーシュトラ州の文化アイデンティティの中核に位置づけられる。

出来事

  • 17世紀: シヴァージー戦記を歌うポワダー成立。
  • 1942年: インド独立運動期の革命的ポワダー。
  • 1945年: シャヒール・アンナバーウ・サーテーの活動。
  • 1980年: マハーラーシュトラ・ダリト・ポワダー運動。
  • 2000年代: 学校教科書での取り上げ。

派生・影響

マラーティー演劇(タマーシャ)・映画音楽の素材、社会運動歌としての機能、現代パンジャーブ・ジャイト=ジャト系民謡との比較。

音楽的特徴

楽器ドゥフ、ハルモニウム、ドーラキ、マンジーラ、声

リズム勇壮な拍、講釈と歌の交替、英雄叙事詩

代表曲

日本との関係

インド亜大陸の民族芸能が日本で紹介される際、ボリウッド音楽インド古典音楽(カルナーティックやヒンドゥスターニー)が優先されるため、マハーラーシュトラの地域芸能であるポワダーが取り上げられる機会はほぼない。インド文学・歴史の研究者の間では知られているが、音楽として鑑賞される環境は日本国内に現在のところ存在しない。

初めて聴くなら

「Shivaji Maharaj ポワダー」の録音や映像は映像サービスで検索すると数種類見つかる。まずドールの打ち込みとシャーヒールの声の関係だけを追い、次に観衆の反応(掛け声、拍手のタイミング)を聴くと、音楽が「演じられる場」とどう結びついているかが伝わる。

豆知識

シヴァージーをテーマにした最も有名なポワダーのひとつ「アファザル・カーン・ヴァド(Afzal Khan Vadh)」は、シヴァージーがムガル将軍アファザル・カーンを刺殺した1659年の場面を描く。この曲は今も政治集会や祭りで歌われ、マハーラーシュトラの政治的な文脈でシヴァージーを英雄として召喚するツールとして機能している。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1660年代1750年代ポワダーポワダーラーヴァニーラーヴァニー凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ポワダーを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

ポワダー の系譜全体図(多段)を見る

ジャンル一覧へ戻る