オラトリオ
聖書や宗教的主題を題材に、独唱・合唱・管弦楽で演じない劇音楽として上演する大規模声楽曲。
どんな音か
独唱(テノール・ソプラノ・バスなど)、合唱、管弦楽が役割を分担して、聖書や宗教的な物語を音楽で語る。オペラと決定的に違うのは「演じない」ことで、歌手は衣装をつけず舞台の上で立ったまま歌う。物語の進行は独唱のアリアとレチタティーボ(語りに近い歌)が交互に担い、合唱が場面の感情的な頂点でコメントする役割を持つ。ヘンデルの「メサイア」(1742)のハレルヤ・コーラスは合唱の爆発的な音量が演奏中に観客を立ち上がらせたという伝説があり、この「立ち上がる」慣習は現在も続いている。
生まれた背景
聴きどころ
「メサイア」のハレルヤ・コーラス冒頭の「Hallelujah!」の繰り返しで、合唱の4声部(ソプラノ・アルト・テノール・バス)がどの音を担当しているか聴き分けてみてほしい。中盤で各声部が同じ旋律を追いかけるように順番に入ってくる「フーガ的」な部分と、全声部が同時に歌うホモフォニーの部分の対比が合唱音楽の基本的な技法だ。ハイドン「天地創造」の「光あれ」の場面では、pp(非常に静かに)から始まりff(非常に大きく)へ一瞬で切り替わる劇的な効果がある。
発展
カリッシミ「イェフタ」(c.1648)が古典的型を作り、A.スカルラッティ、カルダーラを経てヘンデルがロンドンで英語オラトリオ「メサイア」(1742)「サウル」「サムソン」によって市民的大規模合唱音楽として完成させた。ハイドン「天地創造」「四季」、メンデルスゾーン「エリヤ」、エルガー「ゲロンティアスの夢」が続き、20世紀でもオネゲル「火刑台上のジャンヌ・ダルク」、ティペット「われらが時代の子」が書かれた。
出来事
- 1648年頃: カリッシミ「イェフタ」
- 1742: ヘンデル「メサイア」ダブリン初演
- 1798: ハイドン「天地創造」初演
- 1846: メンデルスゾーン「エリヤ」バーミンガム初演
派生・影響
ロマン派のドラマティックな宗教合唱曲、オペラ的レクイエム(ヴェルディ)、近代カンタータ・パッション、世俗オラトリオへ流れ込んだ。
音楽的特徴
楽器独唱、合唱、管弦楽
リズムレチタティーヴォ+アリア+合唱、序曲
代表アーティスト
- アレッサンドロ・スカルラッティ
- ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル
- ヨーゼフ・ハイドン
- フェリックス・メンデルスゾーン
代表曲
- メサイア HWV 56 — ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル (1742)
- サムソン HWV 57 — ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル (1743)
- 天地創造 — ヨーゼフ・ハイドン (1798)
- イェフタ — アレッサンドロ・スカルラッティ (1700)
- エリヤ — フェリックス・メンデルスゾーン (1846)
日本との関係
初めて聴くなら
ヘンデル「メサイア」のハレルヤ・コーラス(演奏時間4分程度)を最初の1曲として聴き、次にヘンデル指揮協会(The English Concert、ガーディナー指揮など)による全曲録音の第1部「予言と降誕」を通して聴くと、アリアとコーラスの交互の構造が見えてくる。
豆知識
ハイドンの「天地創造」の初演(1798年、ウィーン)では、「光あれ」の場面で観客が泣き出したり失神したりしたという記録が残っている。ハイドン自身も「あの瞬間の音楽は神から与えられた」と語ったとされる。この逸話は当時の聴衆がオラトリオを宗教的体験として文字通り受け取っていたことを示している。
